《近況SS》
リンたんが狩りに行ったらしい





《狩りに行ってきます。貰っといたのは交通費と旅行代とその他雑費だから、足りなかった分はあとでちゃんとしんせいしますね★ミ》
 俺は思わず手にしたメモをぐしゃっと握りつぶした。声が震える。
「あ、あの野郎…」
 ただでさえ金の無いニートの財布から金をくすねるって、貴様は鬼か!? 悪魔か!?
 リンの能天気な書置きを片手にプルプル震えている俺をみて、しかし、レンは暢気にテレビのチャンネルなどを変えている。取り置きのDVDに好みのがなかったのか…いやそれ以前に。
「レンてめえ! リンが俺の財布の中身パチってんの止めなかったのかよ!?」
「あ〜?」
 顔を上げたレンは、片手でもさもさとパンをかじっていた。
「だってさ、止められる勢いじゃなかったし。だったらほっといてもよかったかなって」
「良くねー!!」
「あとでマスターに請求しといたらどうですか、リンが使った金ってことはマスターが使ったようなもんだし」
「う……」
 黙る俺。いぶかしげな顔をするレン。
「どうしたんです?」
「ああまぁ、いや… うん。なんでもない」
 はあ、と深いため息をついて、諦める。もういいや。どうせ三千円とかそれくらいしか入ってなかったんだし、でっかい金を持ってかれなかったと思って諦めるしかない。二三日は食べ物は蒸しじゃがいもだな… とか思いつつ床にへたりこむ俺に、レンがちょっとだけ同情めいた顔をした。
「しかし、なんなんだよ。獲物って。キノコ狩りにでもいく気かよ、あいつ?」
「そんなんムリっしょ。リンに毒キノコとフツーのキノコの区別が作って話は聞いたことないし」
「そうだよなぁ…。じゃあ、アケビとかそういう山の幸系? 山菜?」
 でも秋の山菜なんて、あったっけか。
 そんなこんなで考えていると、なんとなく思い出すことがある。顎のあたりをさすっている俺に、「どうしたんです」とレンが敏感に顔を上げた。
「あ、いやさ。獲物というと思い出すんだけど、そろそろ猟期じゃなかったっけ」
「何の?」
「鹿とかいのししとか、あと、雉とか兎とか」
「そんなの猟って…… 今、21世紀っすよ?」
「いや、今結構多いんだよ、ああいうの。鹿とか増えすぎて困ってるから猟が解禁される量が増えてるらしい。意外と美味いんだぜ」
「食べたことあるんっすか?」
「一回だけな」
 まあ、実際美味かったのだが、同時にかぎりなく異空間な体験もした… そんな風に思っていると、レンがニヤリと笑った。なんだか変な感じの笑い方だった。
「なんだよ」
「そういうの好きなんだったら、リンがきちんと獲物とってきたら、匿さんも喜ぶかもしれないっすね」
「…なんだそりゃ。まさか、生き物をとってくるのかよ!?」
「きちんと下ごしらえして火ィ通せば美味い… らしいっすけどね。リンや姉ちゃんたちの話だと」
 ボーカロイドたちが珍重する、野生の食物…
 なんだか興味がわいてきた。俺は思わず起き上がり、座りなおす。レンにむかって手元にあったコーヒー牛乳を勧めながら、「それってどんなもんなんだ?」と聞いてみる。
 今でこそ食欲の無さに悩まされてる俺だが、昔はこれでけっこう食いしん坊で有名だったのだ。特にちょっと変わった食べ物、伝統的な食べ物が好きで、どぜう鍋や食用カエル、ワニのフライなんかは美味かった。ゲテモノというなかれ、どれもちゃんとした文脈にあれば美味いといわれる食材なのだ。
「獲物ってことはこう、やっぱイキモノだよなぁ。リンにちゃんと絞めるられんの?」
「絞めてたっすよ? ていうか、こう生きたまま火を通すっつーか」
「エビみたいだなぁ。泥抜きとかしないと癖がありそうだ… もって帰ってきたら、におい消しにハーブとか薬味とか使わないか聞いてみるか」
「そっすね、シナモンとかミントとかはよく使うかな」
「へぇ?」
「むっちゃ甘くて、栄養はあるけど喰いすぎると太るらしいんっすよ。でも、喉にいいから姉ちゃんたちは喜ぶし。よく火を通すと、とろーっとした感じでいい匂いがして… 食う前に歌ったり踊ったりして盛り上がるのが楽しいって言ってたっすよ」
「おおお…」
 キャンプファイヤーみたいだな。そりゃ楽しそうだ。
 なんか、みなぎってきた。唾液とか。
「そ、それが三千円ってのはありがたいなぁ! リンが頑張ってくれるのを期待するっきゃないなあ!」
 余ったらちゃんとこいつらのマスターにも送ってやろう。なんか夢が膨らんできた。そわそわしている俺をみて、レンは、「落ち着きねぇっすねー」と苦笑する。
「つか、イキモノ食うのとか抵抗ないんっすか?」
「いやあるよ、そりゃある。でもさ、魚だってなんだって、釣ったからには食うのが礼儀だろ? だったら美味しくいただきますよ。がんばってくれたリンと、あと、獲物への礼儀として」
「ふぅん… そっか」
「うおお、なんか期待膨らむ! 料理法とかググってみたいから名前教えてくれ!」
「名前ねぇ」
 レンは、首をかしげた。
「実際、俺もきちんと見たことあんまないんっすけど… リンは《アオイ》って呼んでたな」
 アオイ… 葵? 青い?
 なんだか、あがってきたテンションに水を差す感じで、なんかすごく嫌な感じがした。

 そのとき。

 ぶぶぶぶぶ、とレンの携帯が震動した。「あ、リンからだ」とすぐに着信したメールをチェックする。
「「あぁ、取れたみたいっすね。写メついてきたけど、こんなのだって」
 そういって、「ほら」と俺に携帯のモニターを向けてくれる。
 そこに写っていたのは、縄でぐるぐる巻きにしばられ、涙目になった、青い……






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http://www.nicovideo.jp/watch/nm3943549




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