作詞できねえ俺と友人宅の鏡音双子 「作詞できNEEEEEEEE!!!」 「うるせええええええ!!!」 適切なツッコミ、ありがとうございます。 俺が怒鳴りながらひっくりかえるなり、タイミングよく飛んできたリンのスリッパがパソコンの上を通り過ぎていく。ニヤリ、と笑って振り返ると、リンがスリッパを投げ飛ばした姿勢のまま固まっていた。 俺の顔を見て、一気にカッと頬が赤くなった。悔しかったんだろう。 「な、なんなのその顔!?」 「いやあ、なんか頭の上を飛行するべきではないモノが飛んでいった気がしまして?」 「幻覚よ。見間違いよ。だって、飛ぶべきじゃないものが飛ぶわけないじゃない」 「そうですね」 そういうことにしておいてやろう。 「匿さん、また詰まってるのか?」 「うん… なんかココロが折れそうだ」 リンとじゃれている俺のほうに、レンがお盆を持ってきてくれる。冷蔵庫で冷やしておいた冷たいお茶と無印良品の鈴カステラ。はあ、とため息をついて座りなおす俺、悔しさを紛らわせるようにお盆からお茶をひったくるリン。いきなりもりもりと鈴カステラを食いだすリンにちょっとため息をついてから、レンが俺のほうに向き直る。 すでに一般会員でもエコノミー画質が解除された深夜の部屋。あぐらをかいてちゃぶ台にすわり、周り中に紙を散乱させている俺。 「うわぁ…」 レンが、ものすごく同時に、《げんなり》と《同情》をひとことで表現してくれた。 「なんかさ、ちょっと思ったんだけどさ、ニコニコって字書きに冷たくね? ぶっちゃけ、居場所なくね?」 「何不毛なへこみ方してんですか」 「いや、なんか歌詞かけなくて…」 まあ、理屈は単純なものである。 ようするに俺は、生まれて初めて作詞とかいうものにチャレンジしているのだ。で、挫折した。理由は単純である。音楽の素養などというものが、これっぱかしもなかったからだ。 「詩とか小説とかは書いてるんだろ匿さんって。だったら作詞も簡単なんじゃないのか?」 「甘いぞレン… 完全に別モンだ、これは…」 腹ばいになっていたリンが、口いっぱいに鈴カステラをつめこんだまま、ニヤリといじわるそうに笑う。 「ほへっへー、ほうふるひはんはひはいのうは」 「お願いだから喰ってから言ってくれ。意味が分からん」 「…まぁ、リンの言いたいことはおおまか見当付くけどさ」 「言っとくけどな、才能とかそういう言葉で片付ける世界じゃねえんだからなこれは!!」 近くに散乱していたメモの一枚をにぎりしめ、俺は双子にむかって切々と語り出す。なんかちょっぴり涙が出そうな気分だった。 「いいか、俺は小説はなれてんだよ。これでも10年はやってるからな」 「10年!? …え、それってプロになりたいとかそういうんじゃなくって?」 「いや、プロになりたいとかそういうもんじゃなくてよ、好きなもんは練習して上手くなりたくなるのが人情だろ。まあようするに好きだったってだけなんだけど、お前らのマスターとか、俺の過去を知ってるんだったらわかるはずだぜ?」 聞いたことあるのか、ないのか。レンはなんだかあいまいな顔で首をひねる。リンがようやくくちいっぱいにほおばっていた鈴カステラを飲み込み、ごくごくとお茶で流し込んだ。 「小説の練習って何よ。あんなの、字を書くだけじゃん」 「小説なめんなよ。具体的にはプロの小説を手写しで書き写したり、一度書いた小説は印刷して赤ペン入れて半分以下に縮めたり、視点移動の勉強とか、やることはけっこうあるんだからな」 「あ、なんかそれって、割と歌と似てる…?」 「そう、そうなんだよ!」 バンバン、と俺はテーブルを手で叩く。 「人気がほしけりゃ売れ線も読まないとダメだし、かといって自分で面白いと思ってもないもんを書いてちゃしろうとの名がすたる。地道な基礎練習と古典の勉強で基礎体力つけるのなんざ自慢するようなもんでもねえ! やるのがあたりまえでやってないほうがアホなんだよ!」 「…自慢、してるじゃん」 リンがぼそっとつっこむ。刺さった。 「うぅ…」 ぐったりと落ち込む俺に、レンが、「まぁまぁ」と投げやりに慰めの言葉をかける。 「んで、けっきょくのとこ、どうなんだよ」 「…つまりだ。そういう意味で作詞にもそれくらい練習と素養がないと、そもそもまともなもんは作れないんだろうなと今実感してた…」 「なるほどね。つまり、小説とか詩を書くみたいに自由自在に歌詞を書くには、これから10年必要だと…」 「無理だよ!やってらんないよ!」 俺は手をのばすと鈴カステラを両手でわしづかみにして、半ばヤケクソで口に詰め込み始める。「あっ、ずるい!」といってリンも横からあわてて手を突っ込んできた。もはや鈴カステラの早食い大会。はぁ、とレンがふたたびため息をついて、ちゃぶ台に頬杖をついた。 「まあさ、10年は大げさにしても、言うことはわかったよ」 「だろう!?」 「…でもさ、せめてそれ、10日努力してから言えば?」 「う…」 ニヤリ。なんかやなかんじの笑い方。鏡音のシリーズはどうしてこうも根性がひねまがってるのかと、俺はごくりと鈴カステラを飲み込もうとする。 詰まった。 「―――! ―――!!!」 「まぁ、何事ももうちょっと根気もってチャレンジしてからいいなよ。マスターもあんたの小説技術のほうは評価してくれてるみたいだったし。語彙力とかあるのはそれなりに役に立つんじゃないのか」 「…じゃ、ないの?」 「んぐー!ぐぐ!!」 もがく俺。ケラケラ笑うリン。それと、苦笑しながら冷茶を差し出してくれるレン。 作詞できなくてしょぼんでる俺(´・ω・`) そんなところに杉氏宅の双子が慰めに来てくれたいいのに… と思ったら、双子はぜんぜん慰めてくれませんでした。 その後ちゃんと歌詞は出来たよ!!→http://www.nicovideo.jp/watch/nm5553937 ←back |