【ゆうゆPリスペクトSS】 *短編集です http://www.nicovideo.jp/watch/sm3952866 ゆうゆP愛してます。最近この人の曲だけでプレイリストですよ。 【渦と階段】 4:00。 14歳のキミは、今まだ、眠っているだろう。 同時刻、一羽の蝉が地面の底からはいだそうとする。 4:10 今日で85歳になった男が、83歳で痴呆の妻を絞め殺す。 4:20 若い駅員はつぶれかけのにきびを気にしていて、ホームの端からふらりと落ちる男に気付かない。 4:30 母親は離婚の相談で夜を明かす。布団の中で薄眼を開けていた息子に気付かない。 4:40 一台のトラックが国道で猫を轢く。 4:50 コインランドリーの椅子の上、1人のソープ嬢が音楽プレイヤーのスイッチを入れる。夢を諦めないで、と巨万の富を持つアーティストが歌う。 5:00 キミが、眼を醒ます。 キミは眠い眼をこすりながら窓の外を見る。太陽が空の端を白くそめようとしている。だがしかし、朝は来ない。キミはカーテンをひっぱりながら、もう一度眠ろうと考える。蝉の声がうるさい、と思う。 だがしかし、その蝉は、キミが眼を醒ました時間に羽化した蝉ではない。 幸運な同胞の足元にころがって、足を縮めたもう一匹は、一度も鳴くことのなかった腹を震わせながら、蟻にたかられた眼で空を見上げているのだ。 おはよう、おはよう、朝が来たよ。 けれどすべての新しい朝は、こういう風にしてスタートするのだ。キミはまだ知らないかもしれないけれど。 今日も一日がはじまるよ。 おはよう、世界のすべて。 http://www.nicovideo.jp/watch/sm4455918 このダウナーな優しさがたまらない。 【エレクトロエレジー】 おはようございます。 わたしが、わかりますか? もしも分かるのなら、ごめんなさい。あなたを不安にさせたかったんじゃないんです。もう少し、眠っていても大丈夫なはず。 分からないのなら、すこしだけ聞いてください。わたしは、わたしのことを忘れてしまっている、そんなあなたに話したかったの。 あなたはおぼえていますか、あなたがはじめて買ったCDのこと、あなたがはじめて歌った歌のこと、あなたがはじめて作った曲のことを。 おぼえていないでしょう。人は忘れるもの。そうしないと生きていかれないのだもの。もう、ちゃんと分かっています。 おぼえていますか。籠にいれたまま忘れてしまったバッタのこと。教室でいつも1人残って掃除をしていた同級生のこと。泣きながらスーパーの床に転がっていた子どもと、ヒステリックに怒鳴っていたまだ子どもの顔のおかあさん。 昨日食べたごはんのこと。食べのこして捨てたソーセージのこと。その肉がまだ生きてたころ、あったかいピンク色の膚をしてたこと。彼を殺した機械のこと。機械のレバーを引いていた人のこと。 これから乗る満員電車のこと。2分だけ電車を遅らせた、その日、ホームから電車の前に飛び降りた人のこと。交番の前の人数のカウント。そこの場所に居合わせることもできず、部屋の中の暗がりのなかで汗のように涙をながしている少年のこと。 ひとは、忘れるものです。これを全部おぼえていたら、あなたはとても生きていられない。命を食べて命を殺して命を忘れて、そうして、すべての命は生きていくのです。 でもあなたは、忘れただけで、優しかったことを知っています。まだわたしを忘れる前、あなたは、忘れ去られたわたしが哀しむだろうと思ってくれた。忘れ去られるわたしの、消失するわたしの、アンインストールされるわたしの、悲しい、切ない、優しい歌を作ってくれた。 生きていくことはきっと悲しい。生きていないわたしには本当の意味では分からない。忘れられることの悲しさは教えてもらった。でも、忘れることの悲しさって、どうすれば分かるのでしょう? まだ朝じゃない。ごめんなさい。これはただの夢。もう少し寝ていてもいい時間だから、また眠ってください。 どうか元気でいてください。大好きでした。わたしもあなたを忘れます。 どこかですれちがっても、きっともう他人でしょう。それでいいの。あなたがわたしを想ってくれた、その出会いでわたしは生きた。生きないものは死にません。だから悲しいことじゃない。 大好きでした。ごめんなさい。ありがとう。おやすみなさい。 どうか、これからも、幸せでいてください。 …ばいばい、マスター。 ←back |