たあたあたあと遠くで銃の鳴く声がする











 たぶん野辺に火をおこす作業をバッツとジタンのふたりにまかせっきりにして、スコールはしばらくうたたねをしていた。
「あバッツ、スコール起きた」
「おーおきたか少年。よかったな飯できたとこだぞー」
(…よりにもよってお前に”少年”呼ばわりはされたくない)
 深く茂った草の間からのそりと起き上がると、肩のあたりの関節が不満そうにきしむのが感じられた。焚き火のにおいがした。バッツが木のきれっぱしで焚き火の下の辺りをほじくりかえし、何か、黒いかたまりのようなものをごろりと掘り出す。「ほいパス」 渡されてうっかりまともに受け取ってしまった。反射的に声があがる。
「うわ!」
「熱いから気をつけろ… ってもう熱いか」
「あはは、すげー、お手玉ー」
 けらけらと笑う金髪の少年。その向こうで同じくらい無邪気な顔をしている茶色い髪の青年。どうやら渡されたものは芋らしかった。灰にうめて蒸したのだろう。ようやく納得して憮然としながら半分に割ると、あたたかい湯気がふわりと上がった。急に空腹が感じられてきゅうと腹がなった。
「バッツ、俺は俺は?」
「そろそろ焼けたかな。よしパス」
「はいパス。…熱っち!」
「よしよし。俺も… 熱ちー!」
 男三人で焚き火を囲んで焼き芋か。なんとなく、どうしようもなく絵にならないような気がしたが、頭よりも胃袋のほうが主張が激しいときにそんなことを考えても仕方が無い。しばらく三人無言ではふはふと芋の蒸し焼きを食う。ほのかな甘みが嬉しかった。
「ええともうじき魚焼けるから待ってろ」
「もう焦げてるじゃんか」
「こいつは脂がぶあついから、きちんと焼いて落とさないと食えたもんじゃねーぞ。中身に火がとおるまできちんと待つこと」
 こまごまとしたことをさらりと言うバッツに、「ふーん」とジタンがうなずく。小柄な少年のうしろでゆらゆらと影がうごいていた。彼本人とおなじくらい感情豊かなその尻尾。ぼんやりと見ているとふっとこちらに気づく。「じゃれたい?」といわれ、スコールは無言でそっぽを向く。炭酸がはじけるようにバッツが笑う。
 こいつらいったいなんなんだ、とスコールはしみじみと思った。
「スコール、野宿なれてない? 肩とか痛いだろ」
 火をつつきながら、バッツが言う。何か言うべきだろうかとおもって黙っていた。ジタンがからかいめいたことを言いかけるが、それより先にバッツがのんびりと口を開いた。
「スコールのそばにいると、たまに、たあたあたあって鳴き声が聞こえるんだよなー」
「…たあたあ?」
「そ。たあたあたあと遠くで銃の鳴く声がする」
 金色の毛につつまれた尻尾が、敏感に反応した。
「なんだそりゃ。バッツ、そういう特殊能力でもあんの?」
「ないない。俺、一般人。ただ、やっぱりいろんな土地の人間は、それぞれ違う感じがするなーってのには敏感かもしれないな」
「ふぅん。じゃ、俺は?」
「風がびょうびょう笑ってる声がする」
「……まんまじゃんか」
 また、けらけらと笑い声があがる。バッツが器用に焼けた石をつつきまわし、分厚いうろこが真っ黒にこげた川魚をひっぱりだしてくる。一匹で三人分はありそうだった。スコールはわずかに目をずらし、自分の武器を見た。
 巨大な刀身にリボルバーを備えた武器。
 火薬と鉄のにおい。
 ゆらめく火の向こうに目をうつすと、立派な大人の男といってもいい顔立ちをしたバッツが、子どものように顔いっぱいで笑いながらジタンと冗談をいいあっていた。あの手は、この剣を握ったこともあるはずなのだ、とスコールは思う。それが彼の特性なのだから。はじめてみたときにはずいぶん驚いたりもしたものだったが。
「ほれ少年。食えー。食えー。そして育て」
「……」
「うわっ、美味そう! すげえ!」
 大きな魚の腹のなかには、わたのかわりに砕いた胡桃や栗、香草のたぐいがたっぷりと詰め込まれていた。どこから見つけてきたんだろう? やっぱり不思議な気持ちでバッツを見ると、やっぱりバッツは子どもみたいに笑って、「たくさん食えよ」といった。
 ゆらめく火の中で粗朶がはじける。風のにおいと草のにおい、そして、夜のにおいがする。ふるさとからあまりに遠い場所。旅の空の下である場所。異郷の場所。
 ふと、傍らの武器にふれてみる。硬質なプラスチックの柄が、分厚い焼きこみの鉄が、すわりが悪そうに、けれど決して居心地の悪そうではない風にみじろぎをした気がした。たぶんそれは自分の気持ちだった。スコールは一瞬だけ目を閉じる。
 火の音がする。仲間たちのにぎやかな気配がする。水と闇と風の、つまり夜の、気配がする。


 たあたあたあと遠くで銃の鳴く声が、遠く、はるか遠くに聞こえた気がした。





スコールさんだって17歳だもの。