emaNoN(エマノン)→NoName(名前が無い)












 /かなしみエマノン
 (バッツと彼の中のもう一人)




「なぁ、《おれ》」
「何?」
「別れの覚悟は決まったのか?」
「……」

「べつに、まだ、全部終わったわけじゃない。やんなきゃいけないことだって残ってる。まだ別れの覚悟なんていらないだろ」
「そういう言葉が出てくる時点で、《おれ》にもわかってるってこともろバレだよな」
「……煩い」
「せいぜい煩くさせてもらいますともさ。《おれ》が元に戻っちまったら、俺だって消滅決定だから」
「消えたくないから騒いでるのかよ」
「そりゃそうだ。俺は、《おれ》とは違うからな」

「終わりのない世界は楽しかっただろ。ここじゃ、誰とも別れないで済む。死も別離も忘却もない」
「……そうだな。楽しいよ。おれは、ココが気に入ってた」
「《気に入る?》 冗談はよせよ。正直俺には、《おれ》は永遠にココが続いて欲しいとおもってるとしか思えないな」
「かもな。お前がそう言うならさ」
「同一人物ってのもやっかいなもんだよ」

「誰のことを好きになってもかまわない。だって、一緒にいたい相手とはいつまでも一緒に居られるわけだから。同じゲームが続く限り」
「……何回でも、何回でも、やりなおせる。それこそ百年だって、千年だって」
「記憶が巻き戻されたって、逢えればまた同じ相手を好きになる。そういう確信はあったんだろ」
「―――うん」
「何回やったと思う」
「知らない。数えるつもりも無い。でも、長い、長い間、同じことをやってたんだろうと思うよ。百年も、千年も」
「《おれ》、ほんとやな奴だな」
「否定は、できないなぁ……」
「当たり前だろ。どんだけ俺が、《おれ》に付き合ってきたと思ってんだ」

「今からでも交代は出来るかもしれないぜ?」
「……やめろ」
「わお、恐い」
「今度またあいつらに手を出したら、ただじゃおかない」
「あはは、怖いねぇ! でもさ、『ただじゃおかない』って何するつもりなわけ?」
「……」
「自殺でもするか? いつだかのセフィロスみたいに? でも無駄だろ。痛いのは《おれ》も一緒なんだからさ」
「……畜生」
「いい加減認めろよ、兄弟。どうせおんなじコインの裏表ってな」

「この世界は茶番で悲喜劇だ。そういう風に思ってるやつのほうが多いのは知ってるだろ。こんなんが永遠に続くことを望んでる奴が、《おれ》のほかにどこにいたっていうんだ? 神様だって飽き飽きしてるくらいなのにさ。なのに《おれ》だけは、まだまだゲーム続行をお望みってわけだ」
「……」
「そりゃそうだ。ここには《別れ》がない。何も恐がらなくていい。言い訳だってちゃんとある。外に出られないんだったら、旅立てなくたってしかたないわけだしな」
「……あのさ」
「何よ」
「相変わらず、ぺらぺらよく回る口だよな」
「仕方ないだろ、《おれ》は俺なんだから。……それに、そろそろこんなお喋りも終わりになるみたいだしさ」

「一人の時間が長くなりすぎると、言葉を忘れそうになる」
「自分の内側に言葉が沈んじまう」
「それが次第に固まって石みたいになる」
「そのうち、意識の上に打ち上げられることもある? 琥珀が浜辺に流れ着くみたいに?」
「さぁ、どうだか。でも、こうやってザックリと《バッツ・クラウザー》を切り取ってみたら、これだけよく喋るやつが二人も出てきたってわけだ」

「《おれ》は、《おれ》のままでいたいんだろ」
「……ああ、そうだよ。おれはずっと、おれのままでいたい」
「奇遇だね、俺はいやだ。正直もううんざりだ。早くこんなとこ出て行きたい。それこそ、《おれ》をぶっ殺す程度で逃げられるんなら、とっくに自分の首でもなんでも掻き切ってると思うね」
「迷惑なやつ」
「どっちがだよ」
「自分のことなら好きなように始末つけときゃいいだろ。でも、あいつらは関係ない」
「大有りだよ。だってさ《おれ》、あいつらがいなきゃ、ここに延々と残りたいなんて思わないだろ?」
「それは思ってるおれの気持ちのせいだよ。スコールもジタンも関係ない」
「そんな気持ち、離れたらすぐ忘れるくせに」
「……煩い」
「『好き』だの『友だち』だのなんだの言っといて、あいつらがいなくなったって、全然困らないで生きていけるくせに」
「うるさい!」

「面倒くせぇやつだな、ホントに」

「結局、元に戻ったら『消える』のはどっちなんだろなぁ?」
「……どっちでもないだろ。ほんとの《おれ》は、おれでも、お前でも、無い」
「所詮はうたかたの夢ってことか。……寂しいもんだな」
「お前はなんにも失くさないだろ。何が《さびしい》だよ」
「しいて言うなら《おれ》がだよ」

「結局のとこ、失くすことを恐がるほど、何かを大事に思ったりなんて、最初から無理だったってこと」

「俺は手出しはしなかった。元に戻っても清々するだけだね。……《おれ》だって、どうせ全部すぐに忘れるさ。記憶が残ってたって、気持ちを忘れる」
「……それは」
「本当に執着するんだったら殺すなりなんなりすりゃよかったんだ。バカらしい」
「莫迦ばっか言いやがって、お前だって」
「なんだよ」
「弱虫の癖に。怖いから、誰のことも正面から見られないだけの癖に」

「……」
「……」

「どうしようもないもんだな」
「ホントだよ」

 顔をうつしていた水たまりがゆらり、揺れて、もうひとつの顔がいびつに歪む。笑っているような泣いているような顔だった。ぱしゃん、とほの白い影を踏みわって、立ち上がる。
 汚れた水の上では、透き通った月の影がとてもきれいだ。
 バッツは大きく息を吸う。そして吐き出す。
 
 夜の、匂いがした。






わけがわからなくなってきたのでぶったぎったよ!!(´・ω・`)