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   《新境地開発・カップリングバトン編・その2



いつのまにか寄り添って寝てしまった(03/バッツ)と(09/セシル)


「んん……」
 カラス貝みたいにつやつやした真っ黒な頭が、なんかさっきから、こっくり、こっくりと、揺れている。
(……あ、危ない)
 そのままカクン、と前にのめって、それから、慌ててハッと顔を上げる。ぷるぷると首を小さく横に振っているのは、目を覚まそうとしているからなんだろうか。まったく表情の分からない甲冑姿であっても、そんな風に仕草で何もかもが分かるセシルがなんだか可愛かった。バッツは思わず笑ってしまう。声まで出していたらしい。火の前に座っていたセシルが振り返り、「どうしたの……」と眠たそうな声でいった。
「あーいや、なんでもない」
(寝ろとか言ったら、絶対に断るだろうなぁ、セシル)
 セシルとは同じ二十歳のよしみでなんとなく親近感を感じるバッツだったが、周りからは一度もそういう風に見てもらったことがない。所作が落ち着いていてどこか頼りになる風情のあるセシルと、何かと落ち着きが無くてちょろちょろと走り回る様子が子どもっぽいと叱られてばっかりのバッツ。おなじ二十歳でも、これだけ違うものなのか。
(ンなことないよなぁ)
 二十歳というのは、別に、十代の連中が思うほどに大人じゃない。自分の内側に必死で回りに目を向ける余裕が無い、という段階はなんとか抜け出しても、まだまだ大人としての責任を果たすための能力なんて身につかない。自分はそのことを素直に(というよりも、自分にかなり甘い感じで?)認めていて、セシルはそうじゃないというだけだ。ようするに、背伸びしてるのだ、この人は。
(どこから見たってさー)
 バッツは、さっきから首がこっくりと船をこぎかけては、慌てて顔を上げるを繰り返している真っ黒な甲冑さんを、なんともいえない気持ちで見つめる。
(普通に可愛いだけじゃんか)
「せーしーる」
「なに……?」
「ちょっとお願いがあるんだけど」
 ここに、とバッツは自分の肩をとんとんとしめした。
「あたま乗っけてみてくれないか?」
「あたま?」
 ちょっと首をかしげる仕草。人間の姿でこれをやられるとちょっと洒落にならないけど(不覚にもドキッとしそうになる、とジタンと意見が一致したことがある)、鎧兜でやられるとなんとも不釣合いで可愛い。思わず笑みこぼれそうになる頬を押さえて、「うん」とバッツは神妙に答える。
「いいけど…… でも、いきなりどうして?」
「肩こりなんだ、最近」
 バッツは大真面目に言った。そしてセシルの兜を指で指す。
「それでね肩をこう、ツボ押しというか」
「……ツボ押し……」
「お願いします、セシルさん」
 大真面目にバッツは頭を下げてみせる。セシルはしばらく唖然としていたようだったが。
「ふふ、相変わらず、へんなこと思いつくんだねぇ」
 やがて指を口元に当てて、おかしそうにころころと笑い出す。声まで可愛いのだ。その声が青貝の面差しと合っているようなあっていないような感じで、その表情が、バッツにはなんとも嬉しかった。


 * * * * *


 バッツとは同じ二十歳のよしみで、お互いになんとなく意識をしあっているようなところがある。スコールとティーダと同じだ、とセシルは常々思っていた。
 そうやって比較できるほど似通った部分のない二人ではあったが(同じなのは年齢と性別だけ、とお互い同意に達したことまである)、強いて言うのなら、僕は未熟な大人で、バッツは成熟した子どもだと言えるだろう。大人ではあってもまだまだ未熟さばかりが目立つセシルと、【子どもっぽいこと】においては完全なベテランの域に達している彼。お互い、面白い比較だと思う。どちらが優れていて、どちらが劣っているというわけでもないのだけれど。
 肩によりかかってしばらくうとうとして、それから目を覚ましたセシルは、すぐ傍らですうすうと健康そうな寝息を立てているバッツに気付いた。どうやら肩を貸した自分のほうが眠たくなってしまったらしい。目を開けて、横顔を見つめる。面差しにすらどこかしら、あどけない造作が目立つ顔立ち。
「……ツボ押し、かぁ」
 肩がこってるバッツなんて想像も出来ないのに。セシルは思わず笑みをこぼしてしまう。硬くてとんがった兜のトゲトゲなんて痛いだけだろうに。それでも熟睡しているのはやっぱり【バッツだから】なのか。自分と同い年の子どもの寝顔を見ていると、葛藤だらけの自分がなんだかバカらしくなってくる。
 むき出しの肩が寒そうだった。それにね、やっぱりトゲトゲは痛いだけだ、と考えて、セシルは短く目を閉じる。音もなく青貝の殻がほどける。やわらかに波打つ、海の泡のように白い髪が、二人の肩へとふわりと落ちる。
 にゃむにゃむ、と何かバッツが寝言を言ったようだが、意味はよくわからなかった。でもまあ、トゲトゲを肩にせおっているよりは寝心地がいいんだろう。セシルは思わず笑みを漏らす。
 手を伸ばし、マントを引き寄せて、バッツの肩を覆ってやった。よりそった肩はあたたかい。子どもの体温だ、と思う。そしてふと考える。僕は、バッツに子どもでいてもらいたいんだろうか。そのほうが楽だから? 都合がいいから?
 ―――へんなこと考えてんだなあ!
 そんな感心声が聞こえてきそうで、セシルは思わず苦笑した。そういうしょうもないことを言ったって、たしかに、仕方ないよね。せっかくの好意なんだから甘えるとしよう。同胞たる風の子どもの優しさに。
 セシルは、バッツの頬にそっと顔を寄せ、目を閉じる。
「おやすみ、バッツ」


暗黒騎士セシルはかわいい。



************



メイド(01/ジタン)と主人(08/ティナ)で主従ごっこ。
→<

「お帰りなさいませ、ご主人様」
「今日はずいぶん風が強うございました。御髪が乱れていらっしゃいますよ」
「ええ、いえ、ご自分でなさるなんてとんでもない! 私めが整えて差し上げますから、どうぞそこにお掛けになってくださいな」
「はい、今日のお茶はミルク抹茶でございます。ご主人様が以前、お好きだとおっしゃっておりましたから。ちゃんと憶えておりますよ?」
「黒ゴマのケーキも、蕎麦かりんとうも、今日のお茶にあわせて準備をいたしました」
「ええ、ええ、どうぞ存分に召し上がってください。レデ…… いえ、ご主人様がそのように嬉しそうになさっていることが、わたくしめのいちばんの喜びでございますから……」
「はい、えっと、じゃなくて、何をおっしゃいますご主人様、じゃなくて」

「ジタン」
 ちょっと困ったような顔をして、ティナが、オレの襟元に結ばれているリボンをツンとひっぱる。なんかマズったかな? 内心で冷や汗をかきながら、オレは、「お戯れを、ご主人様……」などと答えてみるが。
「そういう喋り方は、やっぱり、あまりジタンらしくないと思うわ……」
 ティナが意外にもかなり本気の口調だったので、こっちも、思わず地が出てしまう。
「えー、だって、しょうがないじゃん。今のオレはメイドさんでございますもの」
「わたし、メイドさんよりも、ジタンのほうが好き」
 うおっ。
 ド直球でくるなあ、と思いながらティナの顔を見下ろすと、すみれ色の瞳がなんとも寂しそうにこちらを見上げてくる。また指先でリボンを引っ張って、「ねえジタン」という。
「メイドさんの練習は今度にして、今は、同じテーブルでお茶を飲みたいな」
 ……まいったね、こりゃ。
「それは命令ですか、ご主人様?」
「命令じゃなくて、お願いよ」
「あいよ、了解」
 こりゃ、降参するしかないね。オレは苦笑しながら両手をあげる。けっこういい線、いってると思ったんだけどなぁ。
「そう、よかった! じゃあわたし、もう一個カップを持ってくるね!」
 ティナは、ぱっと笑顔になって立ち上がる。そのままパタパタと走っていく後姿。オレは自分の両手を見下ろした。ふわふわともつれた亜麻色の髪の、やわらかい感覚が、まだ残ってる。
「あーあ」
 もう、苦笑するしかないね。どうしようもない。オレはそのままぽふんと椅子に腰を下ろす。たっぷりとした別珍やフリル、幾重にも重なったパニエの布が、ふんわりと体重を受け止めてくれる。
「役得だと思ったんだけどね」
 そうそう抜け駆けはさせてくれない。でも、そういうご主人様こそ《レディ》の名前にふさわしいのかもな、なんて思いながら、オレはお皿からつまんだ蕎麦カリントウをぽんと口に放り込んだ。


 ジタンメイドはさぞかし男前可愛いことでしょうと思うの


**************

隣で歩いてるのになかなか手がつなげない(10/フリオ)と(07/スコール)。ときどき触れ合う手がもどかしい。



 手をつないで歩いてください、と大真面目にコスモスが言った。
 ―――ぶっちゃけた話、どう考えても、冗談を言ってる顔だった。
「(……さすが、王様ゲーム)」
 カラオケに言って暴飲暴食をしていれば、さすがの清廉な彼女もどこかのタガが外れてしまうらしい。しかしそのコスモスの発言を、彼女の言葉ならなんでもかんでも忠実に執行することを己の任務と心得たWoLに聞かれてしまったのがまずかった。
 そもそもコスモスを捕まえて、あのときそういうこと言ったの憶えてますかー、なんて聞いたら、彼女は真っ赤になって頭をぺこぺこと下げだすだろうに、何が悲しゅうてこんな場所で男二人で手をつないで歩かなければならんのか。しかしコスモスは怖くなくてもWoLは怖い。任務、《おててつないでケーキを買ってきてください》は、どう頑張っても回避不可能なモノなのだ。だがしかし。
「フリオニール」
「あっ、ああ」
「……繋がないのか?」
 フリオニールの肩が露骨にびくんと震える。「ええと」だの「それは」だのといいながらあちらこちらと目線をさまよわせる純情な青年。スコールは眉間にしわを寄せる。普段から険しい表情がますます怖くなる。
 イルミネーションのきらめく夜の街を、男二人で肩を寄せ合うようにして歩いている。それだけですでに妖しいのだから、さっきからすれ違う人たちの視線がなんだか痛かった。女性だけの数人連れはきゃっきゃっと笑いながらこちらを振り向いていったし、手を繋いだカップルは通り過ぎてからはじめて気付いてギョッとしたような顔をしていた。ああもう、なんだこれは。なんだこの拷問は。
「任務なんだからしかたないだろう」
「それは、そのっ、分かっているんだが……」
 スコールとて、けして小柄なほうではない。が、隣に肩を並べたフリオニールの目線はさらに何センチも上のあたりにある。こうやって上目遣いに誰かと会話すること自体が珍しくて、ひどい違和感だ。けれどそんなスコールの事情になど気付く余裕はないらしく、「それは」だの「その」だのと、煮え切らない言葉ばっかりが戻ってくる。
「なんというか、スコールに、済まないような気がしてな……」
「何だが」
「そのっ、周り、よく見るとカップルだらけじゃないか?」
 よく見なくてもカップルだらけだ、とスコールは心の中で冷静に答えた。そうじゃないと罰ゲームにならない。だがこの初心な青年は外に出て初めて罰ゲームの本当の意味に気付いたらしい。そもそも回り中恋人同士だらけという状況が落ち着かないんだろう。そわそわとあたりを見回すたびに、歩調が乱れて、あわせにくくなる。
「(中学生の女の子か、あんたは) だから、何が済まないんだ?」
「いや、スコールのことだから」
 フリオニールは、皮肉めかした言葉にも気付かずに、やたらと真面目な返事を返してくる。
「こういった場所で、ほんとに手を繋いで歩きたい相手は別に居るだろう。その、それを…… お、俺となんてことになったら、後で困らないか?」
 (たった今、現在進行形で困ってるよ)、とスコールは心の中でつぶやいて、ため息をついた。が、そんな風に自分で自分に突っ込みを入れないと、スコールだって困ってしまう。だいたいこのフリオニールの反応が予想外なのだ。これじゃ本当に、デートみたいになりかねないじゃないか。
「(これが、ジタンあたりだったら、どんなに気楽だったか……)」
「その、スコール」
 フリオニールの指が、手の甲あたりに軽く触れる。離れる。さっきからこの繰り返し。
「……ごめん」
「(だから、あやまらないでくれよ……)」
 なんて返事をすればいいのか、わからなくなるから。
 自分よりも大きくて、ごつごつとした手が、なんだか無性に癪だった。

 なんだかんだいってスコール自身も《純情》なのだ。
 それが、一番認めたくない、現時点での一番の問題だった。



 イケメンだけに二人で手を繋いで歩いてたら怪しいなーあやしい…w

***********


「離せー!」暴れる(06/ティーダ)を後ろから抱き締める(05/WoL)
*学パロです
→<

「やーだー!!!」
「煩いぞ、ティーダ」
「やーだ、やだやだやだー!! はーなーせー!!」
 ぶんぶんと腕を振り回し、足で蹴って必死で抵抗しても、しかし、後ろから平然とティーダを抱き上げた腕は、微塵も揺るぎそうにない。なんなんだよこの腕力!? ティーダは必死でWoLの腕を抜け出そうともがく。が、まるでジェットコースターの安全ベルトにでも締められてるみたいな腕は、ちっともゆるまないし、動かない。
 何なんだよこの腕力はぁ!?
「やだやだやだー!」
「何故、そんなに嫌がる」
「ヤなもんは嫌ッス!!」
「議論の余地はないようだな」
「―――!?」
 地面から足が浮いている。足をばたつかせても空気しか蹴れない。それでもティーダは必死だった。「やだー!」とわめいて怒鳴って暴れまくる。なんとしても、このまま連れて行かれるわけにはいかないのだ。絶対に!

 ぎゃーだのきゃーだのと叫ぶティーダを、後ろからかかえたWoLが、とうとう保健室へと入っていった。腕にのっけた消毒綿の上から注射跡をもみながら、「あーあ」とジタンは嘆息する。
「ガキかあいつ」
 たかが予防注射くらいであんなに騒ぐか、フツー?
「でもさ、ライト先生もすごいよな」
 隣で鼻の頭にしわを寄せ、腕の絆創膏を見つめていたバッツが、ふと、思いついたように言った。
「だってさー、泣き喚く17歳をああやって抱えて運べるか、フツー?」
「フツー無理だよ」
「すごいよな」
「フツー、17歳は泣き喚きながら注射を嫌がったりしないけどな」
「そういうもん?」
「そういうもん!!」
 やがて、保健室の中から一瞬の沈黙。そして次に、ぎゃああああ、という悲鳴が聞こえてくる。バッツが、ちーん、と空中にある鈴を叩くそぶりをして、保健室に向かって合唱する。
「成仏しろよ、ティーダ」
「ティーダお前殺されてんぞ……」




 こっちにするか原爆固めにするかで3秒くらい悩みました





「キスしていい?」いちいち聞いてくる(04/オニオン)に赤面する(02/クラウド)
*学パロです


「キスしてもいい?」
 ……まるで、死地にでも赴くような悲壮な覚悟のこもった目で、そんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。
「嫌だね」
「……言うと思ったよ、ああもう、こんちくしょー!」
 息がかかりそうな傍でそんなことを言ったかと思った次のタイミングには、少年は、頭を抱え込むようにして後ろにぽすんとしりもちをついている。付き合いきれない。クラウドはコーヒーをひとくち啜る。オニオンはクッションをかかえこんで、左右にごろごろと転がりまわっていた。
 だいたいなんでオレに向かって言うのだと、クラウドは醒めた突っ込み半分、困惑半分でオニオンを見下ろす。かわいらしい面差しの少年は半ば泣きそうな顔になっていた。クラウドの顔に気付いてがばりと起き上がる。またしても、今にも腹でも切りそうな、真剣すぎる表情だ。
「あのさクラウド、そういう態度じゃ練習になんないよ!」
「断られる練習になるんじゃないか?」
「ティナはそんなこと言わない!」
「当たり前だ。オレはティナじゃない」
 ―――そう、論理的に考えて、当たり前すぎる帰結である。
 年上の美少女を《かのじょ》として周りに宣言しているオニオンの当座の悩み、それは、デートする手を繋ぐキスする……まではなんとか進行することは出来ても、ソコに《家族としての親しみ》以外のものをまったく見出せないティナとの関係だった。当たり前だろうとクラウドなんかは思う。ティナはもう高校二年生なのだ。いくら飛び級して同じ学校にいるとはいえ、小学生をまともに《彼氏》と思うことなんて出来るものか。
 しかも、このマセガキときたら。
「なんでオレを練習台に選ぶ」
「だって、だって、ティナに聞かれたら困る!」
 怒鳴るオニオン。理屈として分からないでもなかった。
「しかたないだろ! だってクラウドだったら、絶対にティナをからかったりしないし!」
「……」
「ボクだってこんな恥ずかしいことて、て、ティナに聞かれたら」
「……なるほどな」
 クラウドはため息をつくと、ことん、とカップを横に置いた。
 ふっ、とこちらを振りかえるクラウドに、オニオンは眉にしわをよせた。真顔、というよりも表情の読めない顔で、「もう一回だ」という。
「はぁ?」
「なら、もう一回ためしてみろよ」
 ……謎の発言だった。
 だが、挑発されて冷静でいられるほど、オニオンは、まともな精神状態じゃなかった。クラウドは床に座っている。決然と立ち上がる。そのまま大またでクラウドの傍まで歩いていくと、にらむように、見下ろした。
「じゃあ、もっかい、やるから」
「ああ」
 すう、とオニオンは、息を吸い込んで……
「キス、しても、いい?」
 オニオンがそういった瞬間、クラウドは、ふっと目をそらした。
「……!?」
 青い目。それが、ためらうように視線を横に流す。どこか困ったように目線をさまよわせ、それから、すがるようにこちらをみあげる。青い目。吸い込まれそうに青い。金の髪がかかるひたい。白い肌。白い、白い。
「……うん……」
 つぶやくように答えて、こちらを見上げる。
 ほんの少しだけ、頬を赤くして。
「じゃあ、キスして」

 ―――その瞬間、ガッコン、となんだかひどい音がした。

「?????ッ!?」
 オニオンが驚きのあまり一歩引いた瞬間、ほうりだしておいた雑誌を踏んづけて、ひっくりかえった音だった。
 よっぽど痛かったらしい。大きな目が涙でいっぱいなっていた。その目がこぼれてしまいそうに目を見開いて、オニオンは腰を抑えたまま、あわあわと何やらわけの分からないことを言っている。衝撃のあまり腰が抜けそうになったらしい。
 バカだった。
「オレでもこの通り」
 クラウドは、すぐに元通り、平然としたものだ。ふたたびコーヒーを啜り、雑誌を拾う。
「本番なんて決行したら、その場でひっくり返るかもしれないな」
「ちょ、え、……な、何だよ今の!?」
「昔取った杵柄」
「え、何やってたんだよ! クラウド、昔何やってたの!?」
 ―――恋する少年というものは、まったくもって、かわいらしい。
 内心だとそう思っているけれども、なんだかもったいないのでおくびにも出さない。オニオンはひたすら声もない様子だった。クラウドは思わず浮かんでしまうニヤニヤ笑いを隠すように、コーヒーカップを、もう一度傾けた。
 


 なんかお題とずれました。初恋少年はクラウドにすらほほえましいよ!