―――この世界に、月の光が降りるとき、オレはこの城を閉ざす茨を、そっと開く。 青白い光では、冷たくて、きっと君は寂しいだろうね。 けれどオレは、二度と君に太陽をあげられない。君から太陽を奪ったのは、このオレだから。 冷たい水晶の棺にくちづけをしても、君は目覚めない。 茨姫にはたった百年の眠り。百人目の王子の口付けと、幸福な結末への目覚め。 けれど君が目覚めないのは、オレが王子などではなく、君を殺した悪魔だから。 茨に閉ざされた城の中で、眠り続ける君は、永遠に目覚めない。永遠に微笑まない。 悔やむなど愚かしい。分かっている。君から時を、世界を、すべてを奪ったのは、オレだから。 もしもこの森の呪縛を解いたのなら、君はどこかにまた生まれ、微笑むのだろうか。その唇が歌を紡ぎ、髪に太陽の光がきらめき、喜びが瞳に輝くだろうか。 けれど、再び生まれる君の瞳に、もう、オレはうつらない。 その心のなかにオレはいない。君の世界に、オレはいない…… 冷たく眠る横顔に、繰り返す、想いはまるで、万華鏡のよう。 永遠に君を閉じ込めるのか、永遠に出会えぬ君の微笑を選ぶのか。 青白い光に照らされて、眠る君は、答えない。閉ざされた茨の森の中、水晶の棺に眠る君は、もう二度と目覚めることは無い。 誰か止めてくれ。オレの狂気を。 君を冷たい永遠に凍りつかせた、オレの狂気を止めてくれ。君を解放してくれ。光る風の中に。太陽のきらめきの中に。 茨の森の封印は、千年の眠り。 繰り返す口付けの数は、天を覆う星よりも多く。 君を目覚めさせる王子など、このオレが殺してやる。誰にも君を奪わせない。 矛盾している。狂っている。それでもオレは、君を手放せない。 青白い月の昇る夜には、眠る君に、口付けを。 悪魔の騎士が守る城で、茨の森の英雄は、永遠に眠る。 愛しているよ――― 十代。 pumpking666様に差し上げました。 ←back |