二番目の恋 【藤吹】


ばかだったばかだった俺ってほんとうにばかだった。

俺は吹雪にはじめて会うまで、そうして、抱きしめてくれる腕のあったかさを知るまで、くちづけのかすかに乾いた感触と、その内側のやわらかなあたたかさを知るまで、自分が誰かに愛される価値がある人間だって、本当の意味だと気づいていなかったのだった。そうして俺は初めて知った。俺が俺自身でどうしようもなくもてあましている不安定さが、傲慢さとない交ぜになった繊細さが、天に浮かぶ月を掴み取ろうとするほどの幼い憧憬が、誰かにとって愛するべき価値があるものだっていうことを。

俺のことを抱っこしてくれたのは吹雪だった。そうして口付けを教えてくれたのも、口移しで教えられるニコチンの苦さを教えてくれたのも、吹雪だった。そのくせ俺は自分に恋ってものができるってことを知った瞬間別の人が好きだったって事に気づいた。ばかだばかだ俺はどうしようもないばかだ。俺のことを好きになってくれたのは、他の誰でもない吹雪だったはずなのに。

情けなく涙を流し、子どもみたいにしゃくりあげながら謝る俺に、でも吹雪は、「いいんだよ」って言ってくれた。「そういうとこ好きになったんだからしかたないし」と言って俺の頭を撫でて、それから額にキスをして、髪をかきあげて耳を軽く咬んだ。そうしてそれが吹雪の、《赦す》という意味のサインだったのだった。

俺たちはその日、はじめて、同じベットで抱き合って眠った。俺の初恋の人は吹雪で、そうして一回もセックスをしないままで俺の初恋は終わった。吹雪の髪に顔をうずめ、その匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、《乳と蜜の匂いがする》と俺は思った。

そうしてはじまった俺の二番目の恋は何一つとして優しいものも幸せなものも含んでいなくって、俺自身の思いは俺のことをどうしようもなくズタズタに切り裂いたけれど、でも、俺が自分の傷跡を自分で舐めるとき、思い出すのは吹雪のことなのだった。吹雪は優しかった。どうしようもなく、優しかった。そうして俺は、生まれて初めて俺のことを好きになってくれた人が吹雪でよかったと心から思った。吹雪からは、乳と蜜のにおいがした。そうしてそれは、神さまが人間に約束して、そうしてとうとう最期までくれてやることのなかった、楽園というもののにおいなのだった。


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