モルヒネ (四期×一期?)
さあ、傷を見せてごらん。
舐めてやるから。
《…だめだ》
《すごく大きいから、この傷は、だから》
《覗いたりしたら、きっとあんたもこのなかに落ちちまう》
《この中は真っ暗で深くて》
《二度と出てこられなくて》
《だから》
いいんだよ。
だって俺は、お前なんだから。
自分で裂いた傷は、自分で縫えばいい。
自分自身の傷を舐めても、誰も哀しくなりはしない。
さあ、その傷を、見せてごらん。
(そうして抱きしめる身体は、哀しいほどに細くてちいさい)
(お前はもっと大きかったはずなのに、血潮は熱く、髪は乾いて草の匂いがして、手足は伸びやかだったはずなのに)
(いつのまに全てを削り落として)
(こんなにも小さくなってしまったんだろう…?)
誰もいないはずの古ぼけた建物の部屋の中で、ちいさな水音がする。くちびるは見えない傷をたどり、誰にも見えずに流される血を、やわらかい舌がそっと舐める。
狭苦しい部屋には少年がひとり。他には誰もいない。誰も彼を見ず、咎めない。
彼は、傷を舐める。麻酔をかけるように。ほころびを縫うように。熱に浮かされたきょうだいを、眠らせるように。
ひそやかな鎮痛の時間は、誰にも知られないまま、ただ流れていく。
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