子どもなカンケイ 1.
(十代記憶喪失ネタ)


 眼を覚ますと、頭上には見慣れない天井があった。
「……」
 ここは、どこなんだろう?
 眼を動かすと、蛍光灯の灯った天井や、薬を入れた棚なんかが見えた。でも、記憶が途切れることなんて珍しくもないので、まずは落ち着いて自分のいる場所について考える。
 ―――ここは、びょういんなのかな。
 そろりと手を動かすと、シーツが手にふれる。ずきり、頭が痛む。怪我したのかな? 触れてみると、ガーゼの包帯が指にさわった。
 そろそろと手を動かしていく。ベットの横のちいさなテーブルに、見慣れない革のケースを見つけた。中身は、カードだ。触れなくてもわかる。やっと安心した。だいじょうぶ、今日もちゃんと引き離されないで済んだみたい。
 そちらへと手を伸ばしていく最中に、ふいに、ドアがスライドする音がして、誰かが部屋へと入ってきた。お医者さんだろうか。そう思って眼を上げた瞬間、聞いたことも無い声が、耳に飛び込んできた。
「―――十代! 眼が覚めたのか!?」
「!?」
 ぎくり、と肩を震わせる。誰だろう!? けれど、飛び込んできた誰かしらは、まっしぐらにこっちへと駆けてくる。いきなりぎゅうと抱きしめられて、息が、詰まった。
「じゅうだい、じゅうだいっ! くそっ、心配させんなよなぁーっ!!」
 ……だれ、だろう?
 それは、たぶん、10くらいも年上の少年だった。オサム兄さんとおんなじくらいだろうか。でも、髪の色も、眼の色も、見たことが無いようなあざやかな色をしている。おずおずと、誰だろうと問いかけようとする。けれど、彼の眼に涙を見て、ぎょっとした。なんで泣いてるの、この人!?
「あ、あの」
「おい、来いよ! やっと十代が眼ぇさましたんだよっ!」
 か細い声を掻き消すようにして、大声で怒鳴る。誰かが、ドアのところで立ちすくんでいるのが見える。とたん、あっという間に、知らない声がいっせいに飛び込んできた。黄色いジャケットのお兄さんたちや、黒い服の人、それに、青と白の服を着たお姉さん。みんな、年上の人ばっかりだった。しらないひと、ばっかり。
「アニキーっ! 心配したっすよう!」
「貴様はどれだけ人に心配をかければ気が済むんだ! 迷惑なやつめ…」
「でも、よかったわ。何事も無いみたいで…」
 声、声、声、しらない、声。
 自分を抱きしめていた青い髪の人が、やっと腕をゆるめてくれる。顔をのぞきこんで、にっこりと笑う。したしげな笑顔だった。戸惑う。どうしよう、しらないひとたち、なのに。
 その表情の戸惑いに気づいたのか、ふいに、碧の眼にためらいがにじんだ。額に手を当てられる。「どうしたんだ、十代?」と気遣わしげな声。
「まだ、どっか痛いのか。だいじょうぶ?」
「あ、あの、…」
 かぼそい声を振り絞る。集まってきた人たちの声が止まった。シーツを握り締めて、眼を上げた。どうしよう、こわい。しらないひとたち。
「ひ、ひとちがい、だと、思い、ます…」
 誰かの声が、こぼれた。
「え?」
 びくんと、肩が震えた。どうしよう、どうしたの。ここはどこなんだろう。なにがおこったんだろう。
 それだけしかどうしても声が出なくて、精一杯、手の中に取り戻していたカードケースを、握り締める。なのに心の中で呼びかけても返事がない。どうしたんだろう? 頭が混乱する。ぼく、いったい、どうしてしまったんだろう?

 どうしよう。
 こわいよ、たすけて。
 こえが、きこえない。
 ―――どこへいったの、ユベル?






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