コラム:GX人名各国対応
《ヨハン・アンデルセン編》



 序.ヨハン・アンデルセン人名対応にあたって
うちに『人名の世界史』という本があったので、それをみてて、なんとなく思いつきました。
”ヨハン・アンデルセン”って、よくよく考えるとものすごーく普通、というか、日本語でいうと「藤原優介」に匹敵するかそれ以上に平凡ぽい名前だとおもわれます…
で、それだけ平凡だということで、逆に西欧人名としてあちこちの言語に置き換え可能なのです、という話を以前していました。
ヨハン好きさんには面白いかな、と思って、ヨハン・アンデルセン改造計画を立ててみました。というわけでGo!


 1.人名としてのなりたち

 基本形:ヨハン・アンデルセン《Johann・Andersen》
まず、ヨハンの名前のなりたちから説明します。
名であるヨハン《Johann》は、英語名ジョン《John》のドイツ語形です。《John》は聖書を元とする背景を持った名前で、遡るとヘブライ語名ヨハネにたどり着きます。
ヨハネという名前を持った登場人物は聖書には非常にたくさん登場し、この名前が当時においても非常にありふれたものだったということがわかります。意味合いとしては、『神は恵みぶかい』(God is gracious)という意味をもちますが、これを実際に意味として把握しているかは非常にあいまい… でも、この名前はキリスト教的な背景をもつ国だとたいていは使われているため、すごくさまざまな形の変化形を持ってます。
姓であるアンデルセン《Andersen》は、意味合いとしては《アンドレアスの息子》という意味を持ちます。分解すると《Andrew-Sen》になりますね。この末尾の《-sen》は『父称』と呼ばれるもので、日本では一般的ではありませんが、文化圏によっては非常によくもちいられるものです。
(注解:父称について 父称というのはそのまま《〜の息子》《〜の娘》という意味をもつファミリーネームを言います。国によってはそれが固定化して普通に姓となっている場合も、代が進むにつれて常に父親の名を父称形に変化させて名乗る場合があります)
ちなみに、《Andersen》はアメリカでの姓ランキングで11位となっている非常にありふれた名前です。ちなみに日本における苗字の人口割合における11位は『加藤』となっています。それくらいありふれた苗字、ということでしょう。

まとめてみましょう。

 ヨハン《Johann》:《ヨハネ》のドイツ語形 「神は恵み深い」の意
 アンデルセン《Andersen》:《アンドレアスの息子》の意味 
  →アンドレアス《Andreas》:アンドリュー《Andrew》のドイツ語形 《Andrew》はギリシャ語名で《男らしい・雄雄しい・勇敢な》の意味。

―――さて、ちゃんぽんな表現になってしまいますが、意味合いへと還元して名乗ると、ヨハンの名前は、

  『アンドリュー(男らしい人・雄雄しい人)の息子ヨハネ(神は恵み深い)』

とでもいえるような意味合いだといえます。
とはいえ、元の言語からしてチャンポン化してることから、彼の名前は現代的、というか、キリスト教文化圏において、ある程度キリスト教化されてはじめて出てくる類の名前だとわかります。

では、これを元に名前を改造していきます。


 2.ヨハン・アンデルセン各国対応型(シンプル編)

この名前が非常にヨーロッパ文化圏だと「ありふれた」名前だということが分かりました。
ということで、これからヨハンの名前を分かる限りの国に対応させて、変形させてみたいとおもいます。
ルールとしては、
ファーストネーム(ヨハン)は各国型に変形
ファミリーネーム(アンデルセン)は、各国において『Andrewの息子(父称)』を意味する名前とする
という風にしてみましょう。
ちなみにつづりは分かる場合のみ記載します。では、Go!

 英語:ジョン・アンダーソン 《John・Andersen》 
  *いちばん基本の形。
 フランス語:ジャン・ドゥアンドレ《Jean・DeAndre 》 
  *フランス語での父称は《De-》
 イタリア語・ジョヴァンニ・ディアンドレ《Giovanni・Diandrea》 
  *《Andrea》はイタリアだと女子名であるため、若干キメラ的な感じ… 父称《Di-》+《Andrea》で推測したけど、ほんとにこういう名前があるかは不明

気づくと『ジョヴァンニ』になってしまったヨハン…(笑 でも、彼の受難はまだ続く。


 3.ヨハン・アンデルセン各国対応型(難しい編)

ここから先では、『名+姓』という形が成立していない国での命名方法に従って変形させます。代表格としては、まず、ロシア語編があげられます。
ロシアにおける人名は、『名+父称+家称』という形で成立します。つまり、『○○家の○○の息子○○』という形で名前が成立するわけですね。例としていちばんありふれた名前、『イワン・イワノビッチ・イワノフ』という名前をあげてみると、これは、『イワン家のイワンの息子イワン』という意味になるわけです。
ロシア語における父称は《-ich》、家名は《-ov》もしくは《-ev》をつけることによって成立します。ちなみに、この命名は外国人であっても適用されるそうです。
というわけで… ヨハンをロシア人にするには父親の名前が必要になってしまいましたので、ここはひとつ、ジム・クロコダイル・クック氏に急遽ヨハンの父親となってもらうことにいたします。その場合、ヨハンの名前は以下のとおりになります。

 イワン・ヤーコブビッチ・アンドルフ 《Ivan・Jakobich・Andrev (アンドレイ家のジェームスの息子イワン)
  名前 イワン《Ivan》
  父称 ヤーコブビッチ《Jakobich) (ヤコブ《Jakob・ジェームスのヘブライ語形》+父称《-ich》)
  家称 アンドルフ《Andrev》 (Andrei + 父称《-ev》)

正確さにはあまり自信はありません。



そして、まだ続きます。
今度は、ヨハン・アンデルセンを女性化してみます。
もしかして女体化か…? 
といっても、ただ名前を女性化するだけですが、苦手な人はいちおう注意しておいてください。



 4.女性化にあたっての基礎知識

西欧圏・キリスト教圏においては、ありふれた名前にはたいてい『女性形』というものが存在します。これは一定の法則にしたがって、向こうだと「女性的」と判断されるように名前を変形させた結果… なのですが、こんなものが存在する理由については、まず、西欧圏における「個人名」ってものについて知る必要があります。
…ただの備考なんで、てっとりばやくヨハンをおなごにしたい人は、飛ばしてください。

日本・中国・韓国などの『漢字文化圏』では、一般的に、「意味」+「音」で名前が作成されています。(さらに、ここに『誰かにちなむ』などもついてきますが、この際割愛)
というのも、この文化圏では、「一文字一文字が意味を持つ『漢字』という表音・表意文字」というものが一般的だからです。たとえば、「明日香」が「トゥモローガール」とジムに言われていたように(笑 ひとつひとつの名前が、ぱっと見ただけで分かる意味合いを持つのです。
ところが、西欧圏ではそうはいきません。なぜか? 向こうだと、アルファベットというものが基本的には「表音文字」であり、意味と切り離されてしまう傾向を持つからです。
たとえば、非常に一般的な「マリア」という名前にしても、英語だけで考えると、語源がどういう意味を持っていたかは推測不能です。(実際にはヘブライ語源でもなく、意味は特定不能だそうです) でも、「マリア」と聞けば、だれもがそれが「キリストの母」「聖処女」を意味するとわかります。つまり、意味合いから切り離されがちなアルファベット言語において、「聖書」という共通言語が、命名のための元となっていた、という現象が存在するのです。
でも、聖書に登場する登場人物の数は限られています。というわけで、昔のキリスト教徒たちは、「男性の名前を女性的に変形して、女の子につける」というテクニックを編み出しました。たとえば、「ヤコブ」→「ジェームス」
→「ジェイミー」といった具合に。
この法則は聖書由来以外の名前にも当てはまり、たとえば「アーサー」は「アーサリン」になり、「アウグストゥス(ローマ皇帝の名)」が「オーガスタス」になり、「オーガスタ」になる、という例も存在します。



 5.ヨハン・アンデルセン改造計画 〜初歩の女子編〜

さて、ここでは簡単に変化できる「英語」「フランス語」「イタリア語」、さらに基本である「ゲルマン語」の変化形にチャレンジします。

 英語:ジョアンナ(Joanna)・アンダーソン
  *ただし英語での変化形は多数あり、他にも推測することができます。たとえばジョアン(Joan)・ジェーン(Jane)・ジーン(Jean)など
 フランス語 ジャンヌ(Jeanne)・ドゥアンドレ
  *他にジャネット(Jeannette)など
 イタリア語 ジョヴァンナ(Giovanna)・ディアンドレ
  *他にジャンナ(Gianna)など
 ドイツ語 ヨハンナ(Johanna)・アンデルセン
  *他にヨハナ(Johanna)、さらにハンナ(Hanna)、イェニー(Jenni)など

ここだと、まだ姓は変化しません。ところが、国によっては、さらに姓まで変化してしまうというパターンも存在するのです。




 6.ヨハン・アンデルセン改造計画 〜応用の女子編〜

このコラムで、《父称》というものについて説明いたしました。これは基本、《〜の息子》という意味になります。多くの国だと、父称は名残として残っているだけで、代々受け継がれ、変化しない姓となっています。ところが、まだ父称を名乗る国だと、《〜の息子》だけではなく、《〜の娘》という名乗り方も存在するのです。
ロシアが代表的ですが、他にも父称を名乗る国は存在します。しらべた限りの例としては、アイスランドなんかはまだ父称を名乗る風習があるそうです。というわけで、《アイスランドに女子として生まれた場合》の変形を行ってみます。

 アイスランド語 ヨハナ・アンデルドッティル《Johanna・Andredottir》
アイスランドはゲルマン語圏なため、実は、男子の場合はそのままヨハン・アンデルセンで通用します。ところが、アンデルセンは《アンドリューの息子》の意味なので、女性の場合は《アンドリューの娘》と名乗らなければいけないことになります。
アイスランドにおける女性の父称は、「〜ドッティル」《-dottir》となります。意味としては「〜の娘」という意味ですね。これが一代続いてヨハンの息子・娘となると、「ヨハンソン」「ヨハンドッティル」と名乗ることになります。仮に十代(ジェイディン)がヨハンの息子/娘だった場合、「ジェイディン・ヨハンソン」もしくは「ジェイディン・ヨハンドッティル」となるわけです。

 ロシア語 イヴァンナ《Ivanna》・ヤーコブノワ・アンドルノワ 
イワンの女性形イヴァンナについては説明不要でしょう。さらに、下の姓については、以下の意味になります。
 ヤーコブノワ (ヤコブ《Jakob・ジェームスのヘブライ語形》+父称「〜の娘」)
 アンドルノワ (アンドレイ+家名「〜家の娘」》
ロシア語だと、父称の変化があるため、女性の場合は名乗る姓もすべて変化します。



7.ヨハン涙目編 〜ロシア語における愛称の話〜

さて、西欧に置いてもっともややこしい姓名を名乗っている国民といえば、ロシア人に間違いないでしょう…
「本人名前+父称+家名」(性別による変化あり)という時点ですでにややこしいロシア人名ですが、さらに、ロシアに置いては「愛称」という概念が存在します。
愛称自体は欧米全体に存在するものですが、ロシアに置いてそれが特殊なのは、「短縮形」「愛称形」「卑称形」の三つが存在するという部分です。
まあ、言ってしまえば、「〜さん」「〜ちゃん」「〜くん」みたいなもので… どう変化させるかによって、距離感が違います。ここを間違えるとロシア人の間だと怒りをかうともいい、また、まったく変化させない名前を呼ぶのは他人行儀だとも捉えられるようです。恋人同士なら「短縮形」をなのり、子どもを呼ぶなら「愛称形」、使用人なら「卑称形」という風に変化するロシア人名… 面白いですが、その分、かなり難解です(苦笑

 男子基本形:イワン
  短縮形:ワーニャ 愛称形:ワニューシカ 卑称形:ワーニカ
 女子基本形:イヴァンナ
  短縮形:イヴァーニャ 愛称形:イヴァーネチカ 卑称形:イヴァーニカ
  (女子はちょっと間違ってるかも…)




以上です。
転載・資料としての利用はご自由に。
(何に使えるかはさっぱりわかりませんが…)

参考資料:人名の世界史 平凡社新書
アメリカ人名辞典 北星堂書店
怪しい人名辞典 http://www2u.biglobe.ne.jp/~simone/aya.htm


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