龍の紅玉


 鋼の鱗に龍の夢は包まれている。龍が夢見るのは原始の樹海――あるいは熱い大地の胎内だ。
 龍は夢の中ですらいつも眠っているものだが、時折は目覚める夢も見る。それは空腹によるものであることもあるし、単に眠り続けることに飽いたということの場合もある。龍は夢の中でねぐらから這い出し、夜空に巨大な翼を広げる。空腹ならば、獲物の種類には構い立てしない。だが、一番好ましい獲物は人間だ。柔らかい肉と冷めた血……龍には決して持ち得ないもの……で空腹を満たすことは良いことであり、同時に財宝を得ることができることあるということが素晴らしい。
 龍は金と銀、宝玉を愛する。集めた財宝を寝床にちりばめ、大地の精髄たちの輝きを子守唄に、龍は心地よい眠りに付く。そうして再び夢を見る。
 龍は時折、人間がねぐらを訪れる夢を見る。その者たちは名誉と誇りに胸を張り、あるいは人を喰らい財宝を奪う龍への怒りに燃えている。単純に、財宝への欲望を抱くものもいるだろう。
 その中の多くの者は爪と牙、炎の前に滅びさる。一部の者は、多くを失いながらも命だけは持ち帰る。そしてほんの稀には、龍の脳髄に刃をつきたて、勝利を得るものがいる―――
 そして龍は夢から醒める。醒めて、不機嫌に鱗を震わせ、しばらくのあいだ硫黄臭いため息を付き、再び夢を見始める。所詮、悪い夢を見ただけだということ。龍にとっても、さほどに重要なことではない。
 龍の眠りがもっとも深くなったときに、もっとも賢い者がひそやかにねぐらに侵入する。その者は伝承にしたがって龍の眠りをさそう薬草を撒き散らし、眠る龍の首を切り落とす。
 眠るままの龍の首を落としたものは頭蓋を開き、脳を探って紅玉を手に入れる。カルバンクルと呼ばれる紅玉は、龍の夢の結晶である。賢人である勝者は紅玉を太陽に翳し、その内に秘められた龍の夢をかいまみる―――
 そして自らもまた、龍の見る無数の夢の一つにすぎぬことを知る。

 龍はそこで目覚める。

 龍はまどろみながら奇妙な夢をいぶかしみ、少し鱗を鳴らし、再び眠りにつく。そして再び夢を見る。夢見て眠る龍の夢を見る。
 龍が真の意味で目覚めたとき、何が起こるのか。
 そう考える賢人の夢も、龍は見続けている。






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