*ストーム1が過去に幻想郷入りしてた設定。
*スキマ師弟とストーム1とおまけになのはさん。
*なのはさんというよりなのはちゃん。



 【永久に色あせぬ亜麻色の】



「師匠ぉぉ〜……もう駄目、俺限界っすぅよぉ」
「何言ってるの。私はまだ、ぜんぜん満足なんてしてないわよ? 若い男がだらしない」
「ンなこと言ったって! そりゃ師匠が化けモノなだけでしょう!?」
「あら、その科白…… 煙も出なくなるまで絞り上げてもらいたい、って意味だと思っていいかしら」
「いっ!?」
 なんだか変な会話が聞こえてきて、なのはは思わず首をかしげる。意味がよくわからない。何をやっているのかな。あそこには、たしか紫と谷口がいたはずだ。ひょいと覗こうとするなのはの眼を、となりで手をつないでいたストーム1があわてて塞ごうとする。
「な、なのはちゃん、見てはいかん!」
「おじいちゃん、前見えないの〜。どうして?」
 抗議の声を上げる魔法少女と、少女の教育を守ろうとする男ストーム1。だが、その騒ぎが聞こえたらしい。「聞こえているわよ」という声が、いきなり、後ろから聞こえてきた。
「ゆ、紫ちゃん?」
「邪魔が入っちゃったか。幸運だったわね、谷口」
 ぱっ、とストーム1の手が離れて、なのはは眼をぱちくりと瞬く。老兵はうらめしげな表情で背後を振り返った。なんだかえらく不自然な感じで声が聞こえたと思う。当然、名残など何も見えない。ひょいと角の向こうを覗きこんだなのはが、「あ、谷口さんなの!」と声を上げた。
 ぱたぱたと走っていくなのはの後を、しかたなく追いかける。目の前にはなだらかに広がった丘。両手両足を広げて、大の字になってへたばっている少年。かたわらには紫がいて、やれやれ、と苦笑するような顔で若い弟子を見下ろしている。
 草に埋もれてへたばっている谷口は、どうやら、起き上がる気力も無いらしい。なのはは長いスカートをたたむようにして、「大丈夫?」とその顔を覗きこんだ。
「大丈夫じゃない」
「えっ……」
「でも可愛い女の子に慰めてもらったら回復するかも。んー、でもなあ、なのはちゃんじゃしかたねーか」
「……わたしじゃ、可愛さが足りないかな……」
「って、違う、違うって! 10年後に期待的な意味なんだって!」
 おそらくは疲れ果てているにもかかわらず、谷口はあわてて起き上がろうとする。「い゛っ!?」と悲鳴を上げるのは、どうやら、どこかが痛みでもしたのか。あきれはてていたストーム1だったが、やがて、側に眼を移す。紫がすこし微笑みながら、そんな様子を、眺めていた。
 ラベンダー色のひとみ。時を経てもまったく褪せぬ亜麻色の髪と、磁器さながらに白い肌。日傘をさしてたたずむ女性の姿は印象派の画家が夢に見たもののよう。やがて紫は振り返ると、ちょっと笑って、こちらへ向かって手招きをする。
「しかたないわね。邪魔が入ったから、特訓は休憩」
「た、助かった……」
「『休憩』は『休憩』だからね?」
「うぅ……」
 かたわらで心配そうな顔をしていたなのはが、情けない顔の谷口を見て、やっと笑顔になる。スカートをていねいにたたみなおすと手に持っていたバスケットを開けた。
「谷口さん、紫さん、差し入れなの。おいしい焼き立てのパンとね、お花のお茶」
 あと、おにぎりもあるの、となのははにこにこと笑う。
「パン屋さんがね、おにぎりが大好きだって言って、売ってくれたの。谷口さんも美味しいおにぎりを食べるよね?」
「おにぎり好きのパン屋って矛盾してねーか?」
「パンが具のおにぎりか、おにぎりが具のパンかも」
「どっちもまずそうだな、おい……」
 とかいいつつ、谷口はなんだかんだと付き合いが良かった。なのはの隣でバスケットの中をなんだかんだと物色し始める。少しはなれたところにストーム1は腰を下ろした。紫が側でスカートをたたんだ。
「紫ちゃんが谷口くんとがんばっておると聞いたから、差し入れに来たんじゃがの」
 邪魔だったかのう、と言うストーム1に、紫は、「そんなわけないじゃない」とすまして答えた。
「調度良かったわ。私から『休んでいいわよ』なんていったら、谷口がつけあがるもの」
「はは、相変わらずのスパルタじゃのう」
「別の誰かさんが甘くして、バランスを取ってくれるから、いいのよ」
 何をやっていたのか、だいたい、見当が付くような気がした。銃士の鋭敏な感覚がそれを伝える。青く晴れ渡った空と、金色の光。そのどこかにかすかなズレが生じている。奇妙な屈折が。
「見ちゃいや」
 紫が、すねた口調で言った。
「こんな不手際、スキマ妖怪の名折れだわ」
「それだけ、谷口くんが優秀だということだろうて」
 なのはにあれこれと話しかけられて、谷口は、疲れのみえる口調ながら、楽しげに答える。どこからどうみても普通の、ごくごく平凡な少年にしか見えない。そう思ってストーム1は眼を細めた。
 本人の自称は『いたって普通』。そんな谷口のことは、しかし、ほんとうのところは平凡とも普通とも縁遠い存在になりつつあるのだろう。境界を操る大妖の力をある程度までは屈服させつつあるのだろう彼の力を思い、ストーム1はそう思う。
 紫がパッチワーク状に、ありとあらゆる種類の境界を操作して、谷口の周りに地雷原を作り上げる。谷口はパズルを解くようにしてその境界を突破し、なんとかして自分自身がバラバラに分断される危険から逃れなければならない。仮に後できちんとつなげなおしてもらえるとしても、自分が、切ったバナナのように切り身にされるのも、時間をずらされてバラバラに分解されるのも不快極まりない体験だ。だから谷口は必死で紫の設問を解こうとする。それが自分自身の異能を研ぎ澄ますのだと、本当の意味では、知らないままに。
「谷口くんは、優秀かの」
「本人の前で認めるわけにはいかないけどね」
「全盛期のわしと戦ったら、どちらが勝つかのう?」
 紫は、一瞬黙った。
「優秀よ、あいつ」
 日傘のふちで、白い布のフリルが、風にゆれた。紫の表情を一瞬隠した。
「もしもあいつが60年前に既にあたしの弟子だったら、あなたは、幻想郷を出られなかったかもしれないわね」
「……はは」
 ストーム1は苦笑まじりに、己の膝に頬杖をついた。
「もしも谷口くんがおったならば、紫ちゃんは、ワシを幻想郷に閉じ込めようなどとはせなんだろうに」
「あいつと、あなた。ぜんぜん違う人間だもの。比べることなんて出来ない」
「谷口くんはワシよりもいい男になるじゃろうよ」
「なによ、それ?」
「谷口くんは、『普通の少年』じゃて」
 老兵は、しずかに眼を細めた。

「―――俺のように幻想郷を棄ててまで、戦場に戻ろうとはせなんだろうよ」

 彼女と再会できたということが、今でも、ストーム1には信じられない。
 紫は、戦鬼であった男にとって、地獄の戦場で見たひとときのまぼろし、彼岸と此岸の境界に存在する幻想でしかない存在のはずだったのだから。
 戦場を彷徨い、彼女と出会い、夢ともまぼろしともつかないひと時を共に過ごし、そして、別れた。
 否、棄てた。
 ラベンダー色のひとみ、永遠に褪せぬ亜麻色の髪の彼女と、その宿り家である平和と夢幻の隠れ里を。
「もう一度あったら、殺されるかと思っておったよ」
「どうして?」
「ワシは紫ちゃんを棄てたんじゃから」
「そんな風になんて思ってないわ」
 紫は少し笑った。仕方が無い人ね、とでもいうように。
 視線を向けた先には、青い空がある。まるで兄妹のように並んで座っている谷口となのは、そして、その向こうにゆっくりと下っていき、遠くの山際で青い空と交わる景色が。
「人間は、短命だもの。あなたは自分のやりたいことを全部やるのに60年も必要だった。だから、私に付き合ってはいられなかった。そうでしょう?」
「紫ちゃんは、そんなに大人じゃったかのう」
 60年は長い時間じゃのう、とのんびりとした口調でいうストーム1に、紫は、「そんなんじゃないわ」と答える。
「私は単にあなたとのゲームに負けた、だからあなたの要求を呑んだ、それだけの話よ」
 風が吹く。亜麻色の髪が揺れ、懐かしい香りをかすかに感じた。乾いた花の香り、かすかに埃っぽい、懐かしい、甘い追想の香りだった。
「すまんの、紫ちゃん」
「なに、それ」
「いつか戦場を棄てる気になったら、ワシはもう一度紫ちゃんに会いに行けるかと思っておったのだが、この年になるまで……」
 ストーム1の言葉を、すっ、と一本の指が封じた。
 ストーム1は眼を瞬き、悪戯っぽい顔で、己のくちびるを指一本でふさぐ紫を見る。
「莫迦いわないで。私は平気だったわ。これからも」
「―――紫ちゃ」
「だから、その爺むさい口調はやめて。『俺』でいいじゃない。私のことも呼び捨てでいいって言ったでしょ? 忘れちゃったの?」
 もう一度呼んでみてよ、と紫は言った。
 透き通るような声だった。
「『俺の紫』って、呼んで」
「―――」
 ストーム1は、声を無くした。
 風が、草を揺らした。
 紫は微笑んでいる。出会ったときには臈たけた美女と思えたものが、今ではほんの少女にしか思えなかった。自分の上に過ぎていった硝煙にまみれた60年を踏み越えて、幻影の乙女は、何一つとして変わらないままにそこにいた。
「……そ」
 何かを言いかけたとき、だが、ふいに、影が差した。
 二人はそろって顔を上げた。そこに、両手にちいさなコップを持った少年がいた。
 谷口は露骨にうろたえた顔になっていた。腰が引けてしまう。
「あ…… え、そ、その、お邪魔だったっすかね?」
 紫は、しばらく眼を丸くしていた。谷口の後ろからひょこんとなのはが顔を出す。こちらは何も分かっていなかったらしかった。バスケットを持ったまま、にこりと二人に笑いかける。
「紫さんも、おじいちゃんも、いっしょに食べてくださいなの!」
「ちょ、なのはちゃ……」
「いいわよ」
 紫が、あっさりと答えた。そしてにやりと笑う。ルージュの唇をいじわるそうに釣り上げてみせる。
「あんたの力は、『他人がいい雰囲気になってるところを邪魔する程度の能力』だったもの。仕方ないじゃない」
「す、すんません!」
「あとでちゃんとお仕置きだからね」
 うあああああ、などといいながら、谷口は曰く言いがたい悲鳴を上げる。それでも紫にきちんとコップを渡している。紫は両手で受け取って澄ましている。過去のときからあらわれたような乙女の面影はもう見えない。ストーム1はわずかに安堵を憶えた。
「ありがとう、谷口くん」
「……へっ?」
 顔を上げる少年は、何も分かっていない顔だった。おそらくは、ストーム1が彼と同じ若さのときであっても、することのできない表情だった。
 悔しく、うらやましい。だがそれ以上に、安堵を憶える。60年は、人の身にとっては長すぎた。
 二度とストーム1がその名を呼べなくとも、いつか、谷口はその名前を口にしてくれるだろうと思う。
 決して褪せぬ亜麻色の髪の彼女を、『俺の紫』と。
 まるでそのかたわらに、永遠に寄り添うことができるかのように呼べる日が、いつか来る。
「あら、これは…… 薄荷。それに、ラベンダー?」
「はい! 紫さんはラベンダーが好きだったみたいだから、ハーブティを入れてもらったの」
 なのはは、そう言って、ふと、首をかしげた。
「いつも、ラベンダーの香りがするから…… 嫌いだった?」
「いいえ、大好きよ」
 紫は少し眼を細めて、なのはの頭を撫でた。
「ラベンダーの花の花言葉はね、『あなたを待っています』というの」
 谷口は、あっ、と小さく声を上げた。
「あ、師匠、なんかいつもちょっと埃っぽい匂いがすると思ったら…… あれ、ラベンダーだったのか」
「埃っぽい、なんて思ってたのね」
「い、いえぇ!? なんでもないですハイ! それは聞き間違いですよきっと!!」
「何が聞き間違いよ。ちゃんと聞いたからね」
「う、うううっ」
 自分はついぞ、彼女と交わすことのなかったほほえましいやりとりを側に、ストーム1はかすかに微笑んだ。ちいさなプラスチックのコップを口につけると、懐かしい香りがほのかに香る。
 彼女からはいつも、ラベンダーの香りがした。永遠に褪せぬ亜麻色の髪。その花と同じ色のひとみの乙女。

 幻想郷の乙女は、追憶のなかの存在。

 追憶の香りを感じながら、ストーム1は、静かに、眼を閉じた。

 

 
******


*以下オマケ。
若き日のストーム1と幻想郷の紫のお話。




「ストーム1ッ! そんな、僕なんか庇って……!」
「馬鹿野郎、どこまで役立たずなんだっ。ぐずぐずしているヒマがあったら、さっさと回復キットでもさがしてきやがれッ!」
 障壁代わりに身を伏せた建物の残骸を、驟雨のような銃撃が削り取っていく。声はほとんどまともに聞こえまい。部下が半ば泣き出しそうな顔で背後へと撤退していくのを視界の端に一瞬だけ映し、ストーム1はすぐに前方へと視線を移した。アサルトライフルの銃倉を入れ替えようとして、ぬるりと手が滑るのを感じる。これは血だ。ストーム1は獣のように唸り、邪魔になるグローブをむしりとった。
「畜生、畜生ッ」
 カラン、という音がした。とっさに障壁から転がり出て、別の壁の背後へと飛び込む。背中を庇ってうずくまった瞬間、すさまじい爆音が響いた。手榴弾が破裂したのだ。ストーム1は眼を開けて、ほんの一瞬前まで自分がいたはずの場所が、おおきくえぐれたクレーターと化しているのを見た。冷たい死の予感がぬめりと背中を舐めた。
 死ぬのか? 俺は、こんなところで?
 硝煙と黒煙。戦況はあまりに不利。無能な司令官のせいでばらばらに分断された戦線。補給もない。部下たちのほとんどもどこへ行ったのか分からない。この瞬間の戦闘をしのいでも、持久戦に持ち込まれれば先は見えている。俺はどうなる? ストーム1は、たとえ弾が尽き、弾薬すらなくなっても、最後は銃剣一つでたったひとりでも多く、敵を屠るために戦い続ける意思があった。だが、部下たちはどうなる? 年齢はさして変わらなくても、戦場に怯え、夜には故郷の夢を見て悲鳴を上げて飛び起きるような若者たち。やつらはどうなる? 穴の前に立たされて銃殺される彼らの姿が脳裏をよぎり、吐き気にちかいものがこみ上げる。
「畜生ぉぉぉッ!!」
 一瞬、銃撃がやむ。ストーム1はホルダーのクレイモア地雷をとっさに掴んでいた。鍛え抜かれた肩がしなり、スイッチを外された地雷が、遠くへと投擲される。次の瞬間、炸裂した爆音が、金属の破片をあたりじゅうへとばら撒いた。
 血と、死と、焔と、鉄と。
 何もない。死神たちのぜいたくな饗宴の場。骨と皮ばかりとつたえられる死神どもすら、この戦場にあっては豚のように肥え太ることだろう。流される血は芳醇なワイン。怨嗟と共に潰える命がその肴。
 一瞬、すさまじい爆音と閃光が、ストーム1の感覚を麻痺させた。何も見えなくなる。空白の時間が訪れる。
 俺は死ぬのか――― こんなところで。
 今だ弾も尽きず、命も潰えぬまま、ここで死ぬのか?
 若い勇士は、ただ、それだけを思った。

 死にたくない。俺はまだ戦える。
 こんな場所で、死ぬわけには行かない―――!

 そのとき、だった。
 ふいに、血と焔の臭いで麻痺したはずの鼻を、かすかに、涼やかな香りが、くすぐった。
 視界の端に、白い何か、淡い紫色の何かがちらついた。何だ!? ストーム1は、とっさに、血まみれた腕で、アサルトライフルを掴んでいた。
 息を荒げ、銃を突きつける男を目の前に、そこにあらわれた何者かは、かすかに笑った。銀鈴を鳴らすような涼やかな笑い声は、あまりにも場違い。その優雅。その美貌。
「あら…… まるで、獣の目ね」
 男は見た。
 いつの間にかそこに現れていた、【そこに在るはずがない】女の姿を。
 レトロなデザインのドレス。貴婦人が携えるような白い日傘。美しい亜麻色の髪、白磁の肌を持った、貴婦人さながらの美女が、そこに、微笑んでいた。
 ラベンダー色のひとみ。
 ラベンダーの香り。
「たまに外に出ると、面白い拾い物が出来る。でも、今回は、かなり珍しいものを見つけられたみたいね」
 微笑む女の姿に、逆に、背筋が総毛立つような恐怖を感じた。
 なぜなら、ストーム1は、確かに彼女を【撃った】はずだったのだから。
 だが、女の身体をずたずたに引き裂くはずだった7.62mm弾は、その背後の壁を穿っただけ。さながら女の身体をすり抜けてしまったように。
 【境界】を越えることが出来ず、その身体へと、到達することすら出来なかったように。
 これは幻覚か? ストーム1は呻いた。とうとう俺も、戦場に頭をやられちまったのか?
「幻覚か、貴様」
 女は、やや、機嫌を損ねたように、眉をひそめた。
「【幻覚】ですって?」
「……はっ。よりにもよって女とはな」
 見るのなら、どうせなら、退治のしがいがあるような、化け物にでも出てきてもらいたかったぜ。乾いた声で哂うストーム1に、女はしばらく黙っていた。
 そしてストーム1は気付いた。
 ほんの数瞬前まで、暴風雨もかくやというほどに荒れ狂っていた銃声が、悲鳴と爆音が、【聞こえない】。
「そう、私を、幻覚だと思ってるのね」
 眼を見開くストーム1に、女は、笑った。淡くルージュをのせたくちびるが、三日月のかたちに吊りあがった。
「なら、これから先に見るものがすべて『幻影』でも、同じことよね?」
「なんだと……?」
 女は、眼を細めて、微笑む。美しい乙女の面差しの上に、はるかに歳経た異様な笑みが、艶やかに咲いた。
「―――気に入ったわ、あなた」
 ストーム1は見た。
 女の背後で、もろい紙をやぶくように、【現実】が、裂けていく。
「決めた。今日のお土産は、あなた」
「なん…… だと?」
「決めたわ。今回は、あなたを幻想郷に連れて帰りましょう」
 呆然とするストーム1の身体を、ゆっくりと、薄暮にもにた淡い紫の色が、包み込んでいく。
 崩落。焔と血の、鉄と死の戦場が、ぽろぽろと崩れ落ちる。それに変わって男を包み込んだのは、かすかに埃っぽく、そして甘い、ラベンダーの香りだった。
「面白いことに、なりそうだわ……」
 そして、ストーム1の意識は、幕を下ろすかのように、闇に閉ざされた。


 60年前のことであった。






スト紫は切ないです。
片割れが永遠の命をもっている、って設定はよく見かけますが、
実際に老年になった恋人と再会というのは実に切ないシチュだと思う。



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