高校の入学式当日、自己紹介でいきなりこんな風にぶちかました一生徒に、クラスの誰もが度肝を抜かれた。 彼女はものすごいほど真剣な目でクラス全体をぎろりと見渡すと、そのまま、どすんと席へと戻る。 しばらく沈黙があって、やがて、耐えかねたように教師が「えーと次の……」と言い出すまで、およそ数十秒。 地獄のような沈黙であった。 だが、毎度毎度これを繰り返されてきた谷口ひとりは、まったく違う感想だ――― 曰く、いい加減にしろ、である。 「おい涼宮」 「何よ」 下校途中、いつもの商店街でとっ捕まえると、ハルヒは馴染みの和菓子屋からちょうど出てきたところだ。 谷口を一瞥すると、そのままツンと顎をそびやかして前を向く。ずんずんとそのまま歩いていくハルヒ。 その迫力で目の前に道が開く。北校の制服である、水色のセーラーがよく似合っていた。 大きな目が理知的な印象だが、ふっくらとした頬や口元は不釣合いにあどけなく、可愛らしい。 見た目だけなら美少女で通るというのに…… このオンナは! 「アホの谷口は、あたらしい学校でオンナの物色でいそがしいんじゃないの? さっさと帰りなさいよ」 「オレのことを何だと思ってやがるんだてめえ!」 しっしっ、という手つきは犬をおっぱらうのとおんなじである。さすがに谷口もカチンと来る。 「あたしは忙しいの。宇宙人とか未来人とか超能力者以外の人間に構ってるヒマなんてないんだからね」 次は、お茶を売っている専門店。お店のおばちゃんが愛想の無いハルヒを笑顔で迎える。 おかきだの茶アメだのもまとめてもらって、お会計。ハルヒの買い物はちゃきちゃきして無駄がない。 「どうせ、女ときたら顔か体しかないアンタみたいなアホがたかってくるのは分かってるんだから。予防線を張っとかないと」 「おまえなー、ストーム1さんが泣くぞー」 ハルヒちゃん、高校で仲よくなれそうなお友だちはおったかの? とか言うぞー。 ハルヒがそういった瞬間、谷口は、正面からカバンをぶつけられて「ぶっ!」と声を上げることになる。 「おじいちゃんは関係ないでしょ!?」 だが、ハルヒの顔は赤い。文字通り図星だったのだ。そのまま大またで店を出て行くハルヒを、谷口は、ニヤニヤしながら追いかける。「付いてこないでよ!」と怒鳴られても、離れるつもりは毛頭無かった。 なぜなら――― なぜなら。 「別に、オレはお前に用事があるんじゃねーもんっ」 ハルヒが買っているもの。美味しいお茶、ちょっぴり高いお饅頭、金太郎アメやおかきなど老人好みのお茶請けの類。 「ストーム1さん、お前の入学式に帰ってるんだろ? オレも挨拶に行くわ〜」 了解はちゃんともらってるんだからな? ニヤリと笑う谷口に、ハルヒは、 生のニガウリでもかじらされたような顔をした。思い切り美少女が台無しであったが、こんな顔のほうが「いつもの」ハルヒらしい。谷口は思わずにんまりとし、こっそりと舌を出した。 「あ、ハルヒさん、おかえりなさいなの! 谷口さんも!」 「なのはちゃん、久っさしぶり〜」 玄関まで迎えに出てくる可愛らしい少女に抱きつこうとすると、すかさず、ハルヒの回し蹴りが膝裏にヒットする。 玄関につっぷした谷口がうめいていると、奥から、足音がする。 「ハルヒちゃんや、おかえり」 「おじいちゃん! もう帰ってたの?」 生意気なハルヒが、ぱっと笑顔になる――― 奥から出てきたのは一人の老人であった。 笑い皺に埋もれた目が温和らしく、どこから見ても性格のよさそうな好々爺である。 だが、身体には不釣合いな防弾防刃服を着っぱなし、腰には頑丈なホルダーを下げっぱなし。 ハルヒはすっかり嬉しそうな顔のまま、しかし、ちょっとばかり口を尖らせてみせた。 「帰ってくるなら早く言ってよ」と。 「こんなに早いんだったら、ちゃんとお風呂入れてまってたのに。遅くなっちゃったじゃない」 「すまないのう、なのはちゃんとハルヒちゃんの顔が見たくて、ちょっとばかり急ぎすぎてしまったわい」 「でも、おじいちゃんも帰ってきたばっかりなの」 にこにこと笑うなのはの頭をぽんと撫でると、ハルヒは、「じゃあ、お菓子とか食べてないわよね?」 とウインクをしてみせた。 「美味しいお菓子とお茶、買ってきたから! 奥で座ってて!」 靴を忙しく脱ぎ捨てて、パタパタと奥へとかけていく。谷口はようやく起き上がってくる。頭にハルヒの靴が載っていた。 「差別だ……」と思わず、呻かざるを得ない。 「谷口さん、大丈夫ですか?」 「ハルヒちゃんは相変わらずじゃのう。まあ、谷口くん、あがっておくれ」 「ういっす! ストーム1さんも、元気でみたいでよかったっすよ!!」 あがりこんで、ちゃぶ台の置かれた座敷。しかし、今はいささか物々しい。 対戦車砲だのクレイモア地雷だのが茶箪笥の傍にきちんと並べられ、ちゃぶ台の上にはゴーグル付きのヘルメットがある。 にこにこと、嬉しくてたまらない、という顔のなのはの横には真っ赤な宝石のはまった長い杖。 しかし、それから眼をそらしさえすれば、ごくごく平和な昼下がりではある。 そうして谷口はそんなものも含めて【日常】と思う程度には、ここいらの雰囲気になれきってしまっていた。 「おじいちゃん、美味しい玉露が入ったわよ」 「いい匂いじゃのう。ありがとうよ」 「あ、うさぎさんのお饅頭だ!」 「それ、なのはちゃん用だから、食べちゃっていいよ。……ちょっと! あんたの分は無いんだからね!」 「谷口くん、なら、わしの饅頭半分食べるかい」 「だってさ、涼宮」 「〜〜〜〜ッ!! もう! わかったわよ! まだあるんだから、おじいちゃんの分にまで手ェ出すんじゃないわよっ!」 「ありがとよっ♪ あ、あとおじいちゃん、KBCとかにも声かけといたっすけど」 「それはうれしいのう。ハルヒちゃんの友だちは、じじいに親切で嬉しいわい」 「また無駄飯食いが増えた……」 「ところで谷口さん、魔法、上手になった?」 「いや、ありゃ魔法じゃなくって、スキマを操る程度の能力みたいな…… かなりイケるようにはなったかな。でも、さすがになのはちゃんにゃ敵わねーよ」 「えへへ、今度、勝負してみたいの」 「へえ〜。やりなさいよ、谷口」 「ちょ、そ、それは勘弁してくれっ」 わいわいと騒ぎながら、饅頭を食べたり、かきもちをほおばったり。老兵と魔砲少女とそしてハルヒ。 谷口はさすがに思わずにはいられなかった。 まあ、自己紹介であそこまでいう気持ちも分かるよ、と。 「実家に、魔法使いと伝説の老兵がいたら、そりゃー、宇宙人だの超能力者だのが出てこねえと、 インパクトが足りねーよなぁ……」 「……ちょっと、余計なこと言わないでよね!」 ハルヒがぐいと肘で谷口をおしのけた瞬間、玄関で、ぴんぽーん、とベルが鳴る。そのまま連打されて、 ぴぽぽぽぽ、ぴぽーん、という音になる。「ホワァァァァァ!!」という奇声まで聞こえてくるのは、 対応が遅いのにブチ切れたのか。 「あ、KBCさんなの!」 「ちょ…… ああもう! うっさいわねえっ! インターホンをまたぶっ壊す気!?」 怒鳴りながら立ち上がるハルヒ。にこにこと笑顔でそれを見ている伝説の老兵。 谷口はもふもふと饅頭をほおばりながら、美味いから、師匠や藍さんの分も買って帰ろうかね、などと考える。 涼宮ハルヒ高校入学、一日目のことであった。 絵掲示板で日常パロをみて、思わず萌えて書いてしまいました。 ところでハルヒって本家二次界隈だといらない子あつかいされてるってほんとですか? かわいいと思うんですがね(´・ω・`) ←back |