【戦え! 水着大戦】
≪3≫


 ど・たぷ〜ん。
 一言で言うと、そうとしか言いようのない光景であった。
「こ、これはすごい……」
「くっ…… 正直、他人の水着姿を見て、こんなにも敗北感を憶えたのは初めてよ…」
 更衣室を出てきた若干名を見て、それぞれ屈辱と感心に打ち震えるこなたとハルヒ。その一方、琴姫は二人の視線を一身に浴びて、茹で上がった蟹のように真っ赤になっていた。
「ううっ、見ないでください! 見ないでくださーい! 今回は私のためのプールじゃないはずですよぉ…!!」
「まぁ、そうよね。こっちもすごいわ」
 妙に含蓄深く頷きながら、今度はその隣を見るハルヒ。言葉もまたもじもじとした感じで胸を手で隠そうとする。どうがんばっても隠しきれていなかった。
「あ、あの、あんまりそういう風に見られると恥かしいんですけど……」
「何を言ってるんだい言葉ちゃん! 同性なのに恥かしがる必要なんてないだろうハァハァ」
「最後のその反応が不穏な気がするんですっ!」
 プールサイドで騒ぐ四人。それを見ていたアリスが、「なにあれ」と至極冷静なツッコミをを入れた。
「んぁ? そりゃあれだろ、琴姫と言葉の乳を愛でてるんだろ。あとケツ」
「ち…!」
 あまりに下品といえば下品な魔理沙に、アリスが思わず絶句する。だが魔理沙のほうは至極マイペースだ。プールサイドに座り、ぱしゃぱしゃと足で水をけりながら、「でかいってのが正義なんだよ!」とケラケラ笑う。
「ほら、やっぱりこう、何にしたってデカい! すごい! ってのは圧倒されるだろ。それが嬉しいんだよ」
「そういうもんなの?」
「あとほら、あられもない姿の女子がキャーキャーいいながら恥らってるのを見るのは楽しい」
「……」
 アリスはよっぽど、プールサイドに座っている魔理沙に後ろから蹴りを入れ、水の中につきおとしてやろうかと思った。
 なんとか深呼吸をし、吸って、吐いて、気持ちを落ち着かせる。そんな風に深呼吸をしている魔理沙に、ふいに、横から「準備体操ですかっ?」と弾んだ声がかけられた。
 振り返ると、そこにはようやく着替えを済ましてきたらしいなのはがいる。さくらんぼ柄にフリル付きのツーピースがなんとも可愛らしい。その隣からはミクも登場。昨日も見た、細い三つ編みの先端にビーズを編み込んだ頭をしていた。
「準備体操? 何それ」
「プールに入る前にはね、きちんと身体を慣らしておかないと足がつったりすることがあるの。アリスさんは泳ぐ前に準備体操をしないんですか?」
「……えっと」
「あー、アリスも私もな、まともに泳いだことないんだよ。あんまり」
「そうなんですか?」
 ミクが首をかしげる。「まぁね」とアリスはしぶしぶ答えた。
 元来、幻想郷では泳ぐという習慣が一般的ではない。小さな子どもなどは河などで泳ぐこともあるらしいが、妖怪のおおい幻想郷でうかつに水場に近づくのはあぶないことのほうが多いのだ。河童だの水妖だのに足を引かれて溺れでもしたら目も当てられない。だいたい水着自体が存在しないのである。たらいで行水をしたり浅い水場でぱしゃぱしゃ遊んだことくらいはあるにしろ、こんな格好をしたのも、こんな風に四角くつくった生け簀を見たのも初めてのことだ… とアリスは思う。
 今は夏。EDF支部の訓練用プール、25mの4レーンには、透き通った水がきらきらときらめいている。フェンスごしの夏の木立ち、降りそそぐ日光と蝉の声。塩素の匂いも水の匂いも、日に熱されたコンクリートの感覚も、すべてが未体験であたらしい。
 ためらいながらプールサイドを歩き回るアリスの足は、か細く、そして、陶器のように真っ白だ。元からほとんど日光にあたらない服装をしているのだから当たり前だが、彼女としては、薄いピンクに青い小花の柄の水着も、《ぬれたら大変だから》という理由でヘッドドレスをひっぺがされた頭も、何もかもが新鮮で、また、とまどいの種なのである。
「じゃあ、魔理沙さんもアリスさんも、およぐのはじめてなんだ。…じゃあ、私が準備体操を教えてあげるね!」
 にこにこと嬉しそうに言うなのはに、「よっしゃ!」と魔理沙も立ち上がる。こちらはいつもどおりに白黒の格好。わざわざ白いフリル付きの黒いビキニを探してきたあたり、それなりにこだわりでもあるんだろうか…
「こなたさーん! ハルヒさーん! 言葉さん琴姫さーん! これから準備体操をするのー!」
 嬉しそうになのはが手を振ると、きゃあきゃあとじゃれていた四人もこっちにやってくる。少女たちはなのはの言うとおり、準備運動をスタートした。




 総勢7人の少女たちが、ちいちゃな女の子の号令に従いながら、屈伸をしたりアキレス腱を伸ばしてみたり、みんなで準備体操をしている。
 スポーツ用の水着でもなく、また、スク水でもない姿での準備体操というのはどことなく珍しい風景だったが、しかし、そんなことはこの際まったく問題ではないのだった。何しろ、絶景である。ど・たぷ〜んど・たぷ〜ん、たっぷんたっぷん、ぷるんぷるんと、揺れるのなんのって。
「……ふつくしい」
「テラ同意……」
 そんな姿を、近くの建物の影からじいっと双眼鏡で眺めている男が二人、ここにいた。
 二人の見ている対象は、主に三人であった。すなわち、言葉、琴姫、ハルヒの三名。《ど・たぷ〜ん》と《たっぷん》と《ぷるん》の三名であった。
 準備体操でぴょんぴょんジャンプでもしようものなら、とにかく上下左右に揺れる揺れる。他人からして【あれは反則】【フェロモン満開】と称される乳は洒落にならない。胸元がV字に切れ込んだセパレートはけっして露出が多いというわけではないが、何しろ素材が素材過ぎた。藍色のボーダーに英字のロゴ。しっかり伸びまくっている。
 隣の琴姫のちょっぴりぽっちゃり気味の白いビキニも、大胆に背中の開いているハルヒの星柄も、決して悪いものではない。何しろ、三人ともちょっぴり種類は違えど、攻撃力満点だというのがたまらない。
「琴姫さんのあの太ももからお尻にかけてのライン… くそおおおおっ! いつも巫女服だった理由はあれかよ!」
「うはwwwwハルヒの足wwwwみwwなwwぎwwっwwてwwきwwたww」
 見つかった瞬間、総攻撃で抹消されること間違いなしの二名だが、遠くにいるのでは仕方が無い。どうやら全員まだ何も気付いていないようで、無邪気に準備運動に熱中している。そしてようやく終わったころのタイミングになって、ようやく我に帰った谷口が、あわてて口元に垂れかけていたよだれを拭った。
「そ、そろそろ第一の刺客が出るタイミングだな」
「おkおk、把握した。じゃあ行くぜホワァァァァァ!!!」
 ぽちっとな。
 KBCは、谷口の指令に従って、手元の携帯電話のメール送信ボタンを押した。


「じゃあ、そろそろ水に入っても大丈夫なの!」
「おっしゃ! じゃあ、私から行くぜ!」
 いきなり歓声を上げた魔理沙が、そのまま、たーっとプールに向かって走っていく。「ちょ、ちょっと」とアリスが言いかけた瞬間、盛大な水音と共に、水しぶきがあがった。
「きゃあ!」
「ぷっは!」
 水から顔を出した魔理沙は、犬のようにぷるぷると顔を振って水しぶきを振り払う。満面の笑顔。
「おお〜っ、こりゃ気持ちいいや!」
「あーもう、魔理沙さん、いきなり飛び込むとあぶないの!」
「そんなこと言うなって。よしミク、こっち来い!」
「はい!」
 魔理沙に促されて、ミクもまた走り出す。が、そのままプールサイドでうっかり足を躓いたらしい。そのまま「きゃっ」と悲鳴を上げて顔から水に突っ込んだ。ものすごく痛そうな音。「だ、大丈夫!?」とあわててなのはが駆け寄った。
「うう、イタイです……」
 魔理沙があわてて傍まで歩いていって、助け起こしてやる。ミクは半ば涙目になって鼻をおさえていた。水面といえど顔からつっこめば痛いものは痛い。
「ねぇ、ハルヒ、こなた」
「……なに」
「この面子って、泳げる人員はどれくらいいるわけ?」
「んー、すくなくともミクと、あと魔理沙とアリスと、琴姫さんは無理が確定してるねっ」
 半数じゃないか。
 あきれ返っているアリスを見て、ようやく事態を把握してきたらしい。ハルヒがいかにも面倒くさそうにガリガリと頭を掻いた。そのときだった。
「あのー、みなさん、大丈夫ですか?」
 ふと、後ろから、声がした。
 皆が振り返ると、更衣室のあたりから控えめに顔を出している少年がひとり。藍色がかった黒髪、まだ10歳やそこらにしか見えない。だが、スパッツ状の短い水着をきているにもかかわらず、ヘッドホンのようなものを付け、手足には長いグローブのようなもの、それに、ニーハイソックスのようなものをつけているのが妙だ。誰だ? 顔を見合わせる数名。だが。
「ロックさん!?」
 ミクが驚いたように声を上げて、ようやく、皆がその正体に気付いた。
「え? えええ?? ロックマン!? どうしたのよ、その格好!」
「びっくりさせちゃってすいません。ちょっとみなさんが気になってて」
 苦笑しながら、こちらへと歩いてくる。皆唖然として声も無い。
 普段のごつい足パーツや腕パーツもなく、ヘルメットもない。が、よくよく見れば声も顔立ちもロックマンのそれ。水着なのかどうかも若干あやしいその格好について、ロックマンはあわてて説明をしてくれる。
「あ、これ防水用のパーツなんです! 元々の戦闘用のボディだとプールの底とか傷めちゃうし、でも、僕の身体はあんまり水に強くないし。だから、慌てていろいろやったらこんな風になっちゃって……」
 防水用のラバーキャップを耳に装着しているのはミクも同じ、だが、ロックマンの格好のほうがずっと大掛かりだ。タイプの違いゆえだろうか…… だがミクは鼻を押さえたまま、「来てくれたんですか?」と眼を輝かせた。
「はい。みなさんが水泳をされるって聞いたんですけど、でも、泳げない人がたくさんいるような気がして」
「よく分かりましたね?」
「えっと…… はい」
 首をかしげる言葉に、ロックマンは苦笑して答える。
「それで、よかったらお手伝いできることがないかなと思って来たんですけど、ジャマじゃなかったですよね?」
「ううん、邪魔だなんてとーんでも! あんた、なかなかそういうのも似合うじゃない! 気に入ったわ!」
 ハルヒは眼を輝かせて答える。
「ちょっと今までノーチェックだったけど、ショタ系メイドロボ…… これは新しいわ」
「しょ、ショタ…… メイド……」
「水着にニーハイってのも新しいわ!」
 軽くロックマンは「あはは」と引きつった笑みを浮かべながら、若干ばかりあとずさる。慌てて更衣室の中に片手を突っ込んだ。
「あ、それと僕だけじゃなくって、遊戯さんにも来てもらったんです。……遊戯さん! 出てきてくださいよ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれロックマン! 心の準備が……」
 またしても、眼を丸くする数名。ロックマンに首の鎖をひっぱられて、ずるずると誰かが引きずり出されてくる。遊戯だった。膝まである水着姿の遊戯は、女性陣の視線を一身に受けて、なんとも居心地の悪そうな顔をする。
「うわぁ、王様!? 王様も来たんだ!」
「ま、まあな。ロックマンにいわれてな…… うわっ?」
 いきなりこなたに飛びつかれて、遊戯の顔が真っ赤になる。なんとも純情な反応。
「泉さん、い、いきなり抱きつくとか……」
「うぇっへっへっへー! 実はさー、迷ってたんだよ、王様も誘うかどうかさー!」
 完全に【小学生体型】のこなたには、ブルーからグリーンまでのカラフルなフルーツ柄のツーピース。色気などはもちろんカケラもなかったが、よく似合っているのは事実だ。ぷにぷにのほっぺたでほお擦りされて、遊戯の顔はゆでられたように耳まで真っ赤になった。ハルヒがあきれたようにつぶやく。
「あんた、どれだけそいつが好きなのよ」
「いやだって、好きなのはモチロンだけど、それよりも気になるじゃん」
 こなたは、びしっとサムズアップしてみせる。
「この頭、水に漬けるとどうなるか!?」
「―――!?」
 一瞬、その場に、電撃が走った。
 遊戯の、真っ赤になっていた顔が、一瞬にして真っ青になる。凍りつく。ちょっとだけ年上のお姉さんに抱きつかれて、それでも少しは期待やら何やらを抱いていたらしい彼だったが、その一瞬で、何もかもを悟ったようだった。
「ご、ごゆっく(ry」
「逃がすかっ! 魔理沙っ、言葉っ!」
「よしきた!」
「は、はいっ」
 とたん、プールから飛び出した魔理沙と、そして言葉が、こなたにがっちりとホールドされている遊戯の後ろに回りこむ。ハルヒも当然協力者だ。四人がかりで担ぎ上げられて、遊戯は「うわぁぁぁあぁ!?」と悲鳴を上げた。
「ふふふ…… 飛んで火にいる夏のファラオとはこのことね」
「溺れるものはファラオにもすがるとも言うしな」
「ハルヒ!? 魔理沙ぁ!? まったく意味が分からないぜ!!」
「ごめんなさい、遊戯さん」
 謝りつつもまったく誠意の感じられない口調で、言葉が、遊戯の首からすばやくパズルを抜き取った。ぽん、と投げられたソレを、ミクがすかさずキャッチする。
「じゃあ、行くわよ! 3!」
「2ぃ!」
「1っ」
 
 いっせ〜の〜、せっ!

「ぎゃああああああ!?」
 少女たちの掛け声と共に、ファラオが、空を飛んだ。
 そして、一瞬の後、すばらしい大きさの水柱が、プールに上がった……




「プールって面白いんですね。怖がってて損しちゃったみたい」
「そうですね…… 琴姫さん、顔をつけるのは慣れました?」
「は、はい、一応」
「じゃあ、次は水の中で眼をあける練習しましょうか」
 どたぷ〜んなビギニの美少女と、たっぷんたっぷんの白ビキニの美女が、二人で小学生のような泳ぎの練習をしている。その様子はなんともほほえましい。にまにまとそれを眺めていたこなたは、くるりと振り返ると、プールサイドでどっぷりとたそがれている遊戯の肩をぽんぽんと叩いた。
「王様〜、ねえ王様〜、もうそろそろいいじゃん。機嫌なおしてよ〜」
「……泉さん、ソレは加害者の言う台詞じゃないぜ」
「うん、まあ、分かってるけどさ。夏の浪漫ってことで。ね?」
 ウインクをしてみせるこなたはなかなかにキュートだったが、すでにそんなもので騙される心理状態の遊戯ではなかった。プールサイドにこなたと並んで、死んだ魚のような目でプールを見渡す。そろそろ、皆が水に慣れ始めているようだった。
 見惚れるようなすらりとした手足で、魔理沙がぐいぐいと水を掻く。プールの壁を蹴ってくるりとターン。すでにぎこちなさなど微塵もない。もともと魔理沙は、運動神経には恵まれているのだ。
「ぷはっ!」
「魔理沙さん、すごいの! これでクロールも完璧だよ」
 ぱちぱちとインストラクターのなのはに拍手されて、水から顔を上げた魔理沙は、顔にはりつく髪をざっと後ろに避ける。満面の笑顔。
「なーんだ、泳ぐのってぜんぜん簡単じゃないか。今までやらないで損したぜ」
「これで、平泳ぎと背泳ぎと、あと、クロールは完璧なの。すごいね…… 今日はじめて泳いだ人とは思えないの」
「ま、ざっとこんなもんかな。アリスのほうはどうだ?」
 ばしゃばしゃと水音がする。ハルヒに手をひっぱられながら、へっぴりごしで水の中でバタ足をしているアリス。真剣極まりない顔だが、魔理沙に負けているのはどうにも悔しいらしい。ちょっと怒ったような顔で何かを言いかけて、「うぷっ!?」と悲鳴を上げる。
「あーもう、落ち着きなさいってば。また水飲むわよ!?」
「だ、だって…… ゲホッ!」
「しっかたないわね、ほんとにもー。ビート板とかないわけ!?」
「あはは… あったら便利だったのにね」
 その側、泳ぐ気がもとからないミクは暢気なものだ。キャアキャアいいながら水をはね散らかしてはそれを追いかけ、ロックマンを追いかけてはしゃいでいる。うっかり水を飲んで喉を痛めたらことだから、という理由があるにしろ、まるで小学生、さもなければ噴水にじゃれつく仔犬といったところ。ロックマンも楽しそうだが、見ているとどうしても、何か、犬をじゃらしている飼い主のような…… メイドロボとは文字通りである。娯楽用ロボットと家庭用ロボットの差といったところか。
「なんかみんな楽しそうだね〜」
「泉さんは泳がないのか?」
「んー、まー、泳いでもいいけどさ、単にばしゃばしゃやってるのも飽きてきちゃったんだよねぇ」
 足でぱしゃぱしゃと水を蹴る。ふと、ニヤリと笑って振り返る。
「またアレとか、ファラオ投げとかやったら楽しいかなって思うんだけどぉ〜?」
「楽しくない楽しくないっ」
「あ、そぉ。残念」
 ほんとうに残念そうにいうものだから、遊戯にとっては冷や汗ものだ。そこでふと、プールサイドにおいてあったビニールバックのなかで、携帯電話が鳴った。
「すまん。ちょっと待っててくれ」
 律儀に断ってから、遊戯がバックを見に行く。こなたはぺったりとプールサイドに座りなおした。そして、長い髪をくるくるともてあそびながら、プールの光景を眺める。
 あっちだと巨乳の二人がチチを浮き輪代わりに水泳の練習をしている。こっちだとロボット二体が水遊びに熱中。そしてこっちだと水の中の暴走族と、片や、練習しても泳げるようにならないツンデレ少女がムキになってバタ足の練習……
「んんん〜」
 面白いのは事実だ。だが、なんとなく足りない気がする。何がたりないのかなぁ? こなたが首をひねっていると、遊戯が戻って来た。「どうしたんだ」と声をかけてくる。
「いやさー、なんか、楽しいんだけどちょっと飽きてきたかなーって。王様、何か面白いこと思いつかない?」
「面白いこと……」
 遊戯が一瞬、なんとも微妙な顔をした。
 なんだろう? こなたが首をかしげていると、遊戯が、「そうだな」と腕を組む。
「……ゲームでもやるか?」
「ほぇ? ゲームぅ?」
「ああ」
 水場でやるゲームって言ったらなんだろう。ビーチバレーとかしかとっさに思いつかない。だが遊戯は《ゲーム》といって、ようやくいつものテンポを取り戻したらしい。多少元気の出てきた声で、「いくつか思いつくぜ」と答える。
「なんかこう、闇のゲームとかはイヤなんですけど」
「い、いや、さすがにそんなことはしない! だが、この人数なんだ。どうせだからチームに分かれて対戦したら面白いじゃないか」
「ああ、それはそうかも。じゃ王様、なんか思いつくのあるの〜?」
「まあ、いくつかはな。……ただ、この人数じゃ半端だから、いくつかモノをもってきたり、人を呼んだりする必要はあるが……」
 遊戯がなんとなく口ごもっているのにも、こなたは気付かない。ゲームと聞いて元気が出てきたらしい。ぴょこん、と元気よく立ち上がる。
「そっか、じゃソレでいこう! みんなー! ちょっと聞いてぇ〜」
 こなたはぶんぶんと手を振って呼びかけた。皆が、それぞれに泳ぐ足やはしゃぐ手をとめて、振り返った。


 ……およそ5分後。
「おー、こうやって並んでみると、なんか雰囲気出るなぁ!」
 魔理沙がいうとおり、プールの左右のプールサイドに、人が別れてならんでいる。こちらには琴姫がおり、言葉とハルヒ、それに、魔理沙もいる。
「おーいアリス、負ける覚悟は出来てるかー!?」
「何よそれ!? まだルールも発表されてないじゃない!」
 怒鳴り返すアリスに、「まぁまぁ」とロックマンがなだめにはいる。こちらの岸には合計で6人。アリスに加えてなのはとミク、それに、こなた。遊戯とロックマンもくわえて、総勢で6名だった。
 泳げないアリスとミクをそれぞれハンデとして、体力がある上に水の中でも息の続くロックマン、ゲームの発案者である遊戯がハンデに加わっての六名だ。だが、これでは人数に差がありすぎる。なのはが首をかしげた。
「遊戯さん、これじゃ人数がつりあわないよ?」
「いや、人を呼んでおいたからな。もうすぐ来るはずだ」
 いいつつも、何かそわそわとして、遊戯の足元が落ち着かない……
 そのときだった。
 バーン、と音を立てて、《ドアではないところが開いた》。
「ういーっす! 俺☆参上!」
「きてれぅ〜、みてれぅ〜! うひゃはliffuoふじこsgajkl」
 突如乱入する思春期男子二人。思わずびっくりして眼を丸くするミクの前で、水着姿の谷口、メタボ気味の腹に浮き輪をかかえたKBCの二人が、「どーも、どーも!」といかにも騒がしく乱入してきた。
「た、谷口ぃ!? あんた、何しに来たのよ!?」
「うはははは! 何をとはご挨拶だな涼宮ぁ! お前らの助っ人にきてやったのさぁ!」
「ごまえ〜ごまえ〜!!」
 満面の笑みでサムズアップする谷口。そして、絶好調でコマのようにクルクルと回転するKBC。二人はそのままどたばたと騒がしく向こう岸に突入した。くるりと振り返るなり、遊戯たちのほうへとビシッと指を指し、宣言する。
「さぁ! これで水着大会…… じゃなかった、水泳大会のクライマックスだぜぇ! ゲームのルールを説明してもらおうかっ」
 絶好調の谷口を見て、なのはがちょっとばかり戸惑い顔になった。となりのこなたが顎に手を当て、「うむ、図ったな」とつぶやくのを見て、「え?」と眼を丸くする。
「図ったって… い、泉さん、そんなことは」
「皆まで言うな。真犯人は分かってるよ。谷口くんたちの発案だね? でも、それにしたって、いやぁこれは……」
 なのはは困惑した。「どういうことなの?」と問いかけてくる。こなたは大きく頷いた。
「うむ、なのは君。真相は簡単だよ。こっちと向こうを比較してみたまへ」
「ふぇ?」
 なのはは、困惑しながら向こうを見る。それから、こっちをみる。
 言葉、琴姫、ハルヒ、魔理沙……
 それと、アリス、ミク、こなた、自分。
「もっと端的に説明するとだね」
 こなたは、端から順番に指を指した。
「特大、特大、大、並」
 それから、こちらに戻って。
「並、小、極小、無」
「……あ」
 さすがになのはも、理解した。なんとなく横で聞き流していたらしいアリスも、がばっと振り返る。
「……そういう、意味、なんだ」「な、何よそれ!?」
 遊戯が露骨に焦った。
「ごっ、誤解だみんな! 別にそういうわけだけじゃ……」
 《だけ》が、実に浅はかだった。
「んじゃぁ〜はじめようぜっ♪ 夏の終わりの一大イベントぉ!」
 だが、こちら側でのやりとりなど知らぬげに、谷口が興奮した大声で宣言する。
「ニコニコ☆大水泳大会だぁ!」
 ニコニコ。誰が、ニコニコ?
「うむ、いけないねぇ。実にいけないねぇ」
 こなたが顎に手を当てた。
「女の子をおっぱいだけ、しかも大小だけで判断するとは、実に間違った選択だよ」
「いや、だから、それだけじゃ……」
「そのとおり、だね」
 いきなり、低い声がした。
 ぎょっとしてふりかえる貧乳組。対して気付かない巨乳組。なのはが顔を上げた。いつもと目が、違っていた。
「谷口おにいちゃんには、ちょっと…… 頭、冷やしてもらわないといけないみたいだね……」







惨劇の予感(笑)




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