いとしい腕時計に歌う歌




私の愛しい腕時計
君の鼓動を聞いているとなぜだか安心するのです


一日を二十四等分に分割する
一時間を六十等分に分割する
一分を六十等分に分割する


もしや君がいなければ、この世界に時間などは存在しなかったのではないでしょうか?

太陽は昇り沈み
月は満ちて欠けて
海はあふれまた引いてゆき
星は天を巡るだけで

それらはなんら時の存在を規定しない
自然は時というものを持たない

はたして記憶が無かったのならば、過去と未来とを誰が分類するのでしょうか?
触れることが出来ない過去の闇と、触れることの出来ない未来の闇
一瞬の閃きである今だけを追いかけて生きていく人間に
時間という名前の約束を与えてくれる君

私の愛しい腕時計
君の鼓動を聞いていると安心するのです

私の鼓動のように狂いやすくも無く
私の鼓動のようにきちがいじみてもいない

いつか電池が切れたとき、君は静かに止まるのでしょう
いつか世界中の時計のねじが切れたとき、この世界から時が消えうせるのでしょう



私の愛しい腕時計に歌う歌





BACK