スーパーヒーロー





 ―――朝霧のまだ消えないころ、島の船着場に、誰も見たことの無い生徒がいる。
 今ではおぼえていない誰だかがそんな噂を言い出したのは、たしかあのころだったか。




「―――ゆうれぇ?」
 ぽかん、と口を開けた瞬間、食べかけていためざしがぽろっとアニキの口からこぼれる。ああもう。お行儀悪いなあ。そんな風に思ったのはボクだけじゃないらしく、「食いながら喋るな!」と万丈目くんがぷりぷり怒っている。
「あ、ごめんごめん。でさ、何ソレ、幽霊って」
「えーっとね、レッド寮の人で見た人がいるらしいんっすよ。朝方はやくのころに、船着場のあたりに赤いジャケットを着た人影を見たっていうのがね……」
「ここの生徒じゃねえのかよ」
「ところが、それを見つけたのが、夜中にちょうど寮の生徒がきちんといるかを見回りした直後の夜勤の警備員だったというんだ」
 万丈目くんがため息混じりに言うと、せっかく箸でつまみかけていためざしの尻尾が、また、ぽろりとご飯の上におちた。ぽかん、ととび色の目が開けられていたのは一瞬だった。アニキの顔が、みるみるうちに、好奇心とわくわくの色でいっぱいになる。
「おっもしれえ! マジかよ、それっ!?」
 アカデミアに出る幽霊ってことは、やっぱりデュエリストの幽霊なのかな!? そんな風に身を乗り出すアニキに、万丈目くんがいかにも迷惑そうに指で耳をふさいで、「うるさい!」と怒鳴った。
「まあ、レッド寮のジャケットを着てるってことは、やっぱりうちの寮の生徒ってことになるんっすかねえ」
「ばからしい。落ちこぼれ寮の生徒ってことは、やっぱりおちこぼれってことじゃないか」
 そんなの、せいぜい留年続きで逃げ出して野生化した生徒あたりが、帰りあぐねてうろついてるんだろうが、と万丈目くんはいかにもバカにした口調で言う。「野生化した生徒って…」 なんすか、と言いかけて、ボクは口ごもった。たしかに、そんなのもいる。実際に野生化しちゃってた生徒の人を、ボクもアニキも、見たことがある
 でも、そういう騒動に端から頭を突っ込んで行くのってどうなのかなあ。できればもっと平穏な生活を送りたいのに。そんな風に思って、そろりと横目で見てみると、アニキは大きなとび色の眼をきらきらさせて、こっちを見ていた。まずい。完全にやぶへびだ。
「それ行きたい! 見に行こうぜ、翔、万丈目っ! 隼人も誘ってさあ!」
「あの特大コアラは、明け方なんかに起こしたって、絶対に動きやしないだろうが」
「えー、そうかあ。そうかなあ。もったいないなあ、こんな面白そうな話なのに」
 お化け話って、そうかあ、アニキの中だと《面白そうな話》にはいるんだ…… と思いながら眼を上げると、うっかり万丈目くんと目があった。ふん、とそっぽを向く万丈目くんに引き換え、アニキのほうは子どもっぽくも満面の笑顔だ。アニキ以外の人だったら、仮にもボクと同い年の、もう15も過ぎてるっていう男子がとってもするわけがないような無邪気極まりない顔で、アニキは嬉しそうにボクに話しかけてくる。
「面白そうじゃんか。なあ、翔?」
「アニキぃ… そんなにお化けが好きなの?」
「お化けはべつに普通だけどさ、デュエルやるお化けなんて珍しいじゃんか。ぜったいに見てみたいよ、それ」
「まだデュエルお化けって決まったわけじゃないっすよう」
 でも、ぜんぜん聴いちゃいない。アニキは、「よし、お化け退治デュエルだっ!」などとわけの分からないことを嬉しそうに言って、そのまま、こぼしていためざしの尻尾を山盛りのご飯ごとがつがつとかきこみはじめる。ボクと万丈目くんはもう一度眼を見合わせる。二人で、なんともいえず呆れたような、それでいて仕方が無いという気持ちの入ってるような、なんともいえないため息をついた。



 あのころのボクたちは、ほとんど毎日を、昇りはじめたばかりの朝の光に、照らされるようにして生きていた。
 始まったばかりの一日は、まだ、どのようなことが起こるのかもまるでわからなくて、ボクは半分不安にべそでもかきたいような気持ちで暮らしていたように思う。それはきっと誰も同じだった。万丈目くんも、明日香さんも、三沢くんも、そして、今になったからやっと分かったけれど… 兄さん、丸藤亮も。
 でも、ボクたちの前には、そんなまぶしい日差しに眼を細めながら、嬉しそうに先にたって歩いていこうとしている背中が一つ見えて、それが、あのころのボクたちにとってのアニキという存在だった。アニキはまだ英雄でもヒーローでもなんでもなかった。ただ、まだみんなが起きたくないとぐずってる朝に、いちばんにベットから飛び出して、朝日をさえぎっていたカーテンを嬉しそうに開け放つ人だった。
 朝だぜ、おきろよ! …って。
 そうして、確かにあのころ、十代という人の明るいとび色の目は、いつであっても、まぶしい朝日に細められているみたいに、すきとおった色をいっぱいにうつして、はじけるような期待と希望の色を浮かべていた。



 ……そうして、《早朝ごろ、海辺のあたりに》というのは、たしかに、あまりにあいまい極まりない噂話ではあった。
 朝方、というよりもほとんど深夜の夜更かしもすぎたあたり、アカデミアの岸辺に向かって、海から霧が這い上がってくる。潮の匂いの濃いその霧は、いちばんの朝日に照らされると消え去ってしまう程度のものだったけれど、やっぱりいちばんに霧の濃い時間は外をうろつくのにも気味が悪い。
 海の方でねぼけたうみねこが鳴くだけで、ボクはほとんど飛び上がりそうになって、半泣きで目の前の万丈目くんの服にしがみつく。「邪魔くさい、くっつくな!」と怒鳴られたけれど、だって、仕方が無かった。一番先頭のアニキは手元に懐中電灯を持ってきょろきょろうろつきまわるのに忙しいし、第一、うっかりアニキに飛びついたりしたら、そのまま岸からおっこちて海に落下しそうな勢いだったのだ。
「お化け〜、お化け〜、出て来い、お化け〜」
 なんだか変な節回しをつけて、嬉しそうに言いながら、アニキは懐中電灯を振り回している。照らし出されたあかりのわっかが霧にぼんやり浮かんでいた。ボクはため息をつき、万丈目くんは不平たらしくガリガリと頭を掻く。「なんであいつはあんなに浮かれてるんだ」と、いかにも忌々しそうに、親指でぐいとアニキを指した。
「知らないよう…… 万丈目くんが聞いてよ!」
「バカの思考回路が言葉でわかってたまるか」
「だったらボクに聞いたって、わかるわけないじゃないかあ」
 ミルクを溶かしたみたいな濃厚な霧は、すぐ目の前までをふさいでいて、うっかり足元を間違ったら、そのまま海におっこちそうだ。気づいたらボクたちはいつも歩いているような船着場のあたりも離れて、コンクリートのテトラポットがいくつも積み上げられているあたりまで来ている。このあたりは波が高くて危ないから、滅多に生徒も近づかない。そんな場所で、器用にベルトに懐中電灯をはさみこんだアニキが、両手両足を使ってひょいひょいと堤防を登って行く。
「何やってるんだ、あのばか!」
「おい、まんじょうめー、しょうー、はやく来いよっ」
 万丈目くんが毒づくのとほぼおんなじタイミングで、登りきったアニキが嬉しそうに手を振っている。万丈目くんはボクの手元からコートの裾をひったくると、ぶつぶつ言いながら磯臭い堤防を登り始める。なんだかんだいって付き合いがいいったらない。……ボクもだけど。まってよう、などといいながら、ボクもあわててテトラポットに取り付いた。
 広いとはいえない堤防のてっぺんで、うれしそうに手を振っているアニキは、どうしてあんなに楽しそうなんだろう。つくづく不思議に思う。ボクがアニキって呼んだ人間は、遊城十代は、なんでか知らないけどいつだってあんな風に楽しそうだ。あんな風にいつも笑ってすごせたらさぞ人生楽しいんだろうなあ、なんてひがみめいたことが思いつくくらいに。
 ―――でも、アニキのそんなところに救われてた、っていうのは、ボクにとっても万丈目くんにとっても、まぎれもなく本当のことだ。
 そんな風につらつらと考えながら、半べそをかいてテトラポットを登りきると、いつも寮から見下ろしている灯台がちょうど海を隔てた向こうに見えた。こんな遠くまで来てたなんて。へたばってぜいぜいと息をついているボクらを尻目に、アニキはひたいに手を当てて、感嘆したような声を上げる。
「うわ、こんなところから見えたんだ、あの灯台」
 ゆっくりと回る灯りが、まっすぐな光の線を描いて、また、通り過ぎていく。ミルク色の霧に光があざやかな線をえがく。なさけなくぜいぜいと息をつきながら、手のひらにくっついていた砂を払い落として――― ふと、なにげなく目線をやった先にみつけたものに、ボクは、思わず眼を瞬いた。
「けっこうきれいだなあ……」
 なんともいえずのんきにつぶやいているアニキは、たぶん、気づいてなかった。万丈目くんが気づいたのも、たぶん、ボクとほぼ同時だった。
 ……堤防の先端、棄てられた星屑みたいなテトラポットの先端に、誰かが、座っている。
 ゆっくりと灯台の明かりが巡ると、その背中がわずかに闇にうかびあがった。見慣れた真っ赤なジャケット。栗色の髪。誰かに似ている。……誰かに? そんな生易しいもんじゃない。ボクと万丈目くんが思わず顔を見合わせたのと、アニキが、「あっ!」と大声を上げたのが、ほぼ、同時だった。
「マジでいた…… デュエルお化け!」
「あっ、こら、十代ッ!!」
 アニキがなんとも間抜けな内容の感嘆の声をあげたものだから――― その《誰か》が、こちらに、気づいてしまった。
 ゆっくりと灯台の明かりが通り過ぎて、その姿が、霧の作り出すミルク色の闇に隠れる。
 だから、たぶん、第一印象はただの錯覚だった……
 闇にかすかに光った目を、ゆっくりと、優雅といってもいいほどの動作で動いたものをみた気がして、ボクは思わず眼を疑った。こぶしで眼をこすっていると、灯りがまた戻ってくる。アニキがテトラポットの足場をぴょんぴょんと飛び移ってそっちのほうに駆けていく。あぶない! 思わず声をあげそうになり、あわててそれを飲み込んだ。万丈目くんも、同じだった。
 《誰か》が、立ち上がる。決して大柄じゃなかったし、強そうな、頑丈そうな体つき、っていうわけでもなかった。その逆だった。華奢といってもいいくらいの体つき。細い手足と、しなやかな骨格。
 その《誰か》は、ボクたちに気づいて、ゆっくりとテトラポットの上を移動し、こっちに歩いてきた。たぶん、幽霊じゃない。それを確認して、お互いに眼を見合わせて、やっとボクと万丈目くんも動き出した。アニキと《誰か》が、狭い堤防の上でお互いに対峙する。
 ―――目が、おかしくなりそうだった。なんだか悪い冗談でも見せられているみたいな光景だった。
 栗色の髪、とび色の瞳、華奢に見えて弾けるようなばねを秘めた手足。そして、真っ赤なジャケット。ようやく姿を見分けて、アニキのほうも唖然としていた。
 そこに立っていた人間は、アニキに、そっくりだったのだ。
 でも、ボクたちのほうに眼を向けて、ゆっくりと視線をめぐらせるしぐさを見て、違う、と頭の中で何かが警鐘を鳴らした。違う。そっくりだけど、この人は、アニキじゃなかった。それどころか、別人という以上に異質な存在だった。
 やや吊り気味の目の様子も、癖があって跳ねている髪の感じまで、アニキにそっくりだった。でも、あきらかにそこだけが異質な目、どこか、奇妙な感情を沈めた目が、ボクたちの上を見回す。万丈目くんをみて、ボクをみて、それからアニキを見た。なにかが、すごく変だった。知らない人にあんな目で見られる覚えなんて、すくなくとも、ボクには、ない。
 でも、そんな奇妙な空気をぶちこわしたのも、やっぱり、当のアニキだった。
「誰だ、あんた!?」
 素っ頓狂な声を上げる。相手の人が眼をまたたいた。とたんに、妙な緊張感がほどける。まるでお茶に落とした角砂糖みたいに、さくりと溶けて消え去った。
「……じ、十代、そいつはお前の…… きょうだい、か何かなのか?」
 震える指でその人を指す。「え? え?」と困惑しながら、アニキはその人のほうを見る。自分の姿を見下ろして、それから、助けを求めるみたいにボクたちをみる。こっちを見られたってこまる。ボクはあわてて手をぱたぱたを横に振った。
 くすり、と笑う気配がした。
「―――驚かせちまった、みたいだな」
 ボクたちは、振り返った。そこに立った人が、その目にかすかに笑みを含ませて、ボクたちのほうを見ていた。
 ……すごく似てる。でも、やっぱり、アニキとその人とは、確実に別人だった。
 アニキより頭半分くらい背が高くて、手足には子どもっぽい丸みが無く、代わりにどことなく野生動物めいたしなやかさがある。眼を丸くしているアニキと見比べると、その人は、顔立ちそのものがそっくりだ、ということを見落としそうなくらいにたたずまいを違えている。腕を組んだ立ち姿の隙のないしなやかさ、なのに、確実にそこに存在している余裕というもの。
 アニキもさすがに困ったのか、しばらく、上を向いたり下を向いたりしながら、あー、とかうー、とか唸っていた。やがてようやく意識が決まったのか、その人のほうを見据える。
「その…… おれたち、噂を聞いてきたんだけど」
「噂?」
「さいきん、このくらいの時間に浜辺近くをうろうろしてるレッド寮の生徒がいるって。それって、あんたのことなのか?」
 その人はしばらく、黙ってアニキを見ていた。そのまなざしの奇妙な風合いがボクたちを困惑させた。アニキもそうだったらしい。たじろいでいるアニキに、しばらくたって、ようやくその人がふっと表情を緩ませる。
「たぶん、そうだろうな。……噂になってるとは、思ってなかったけど」
「その、あんた見たことないけど、ここの生徒なのか?」
「ああ」
 あっさりと答える。―――でも、その答えがおかしいってことくらい、ボクにだって分かる。万丈目くんが小さくつぶやいた。
「……見たことのないディスクだ」
 その人は、腕にディスクをつけていた…… 万丈目くんの言うとおりだった。赤い強化プラスチックでエッジを保護したデザインは、見たこともない仕様のものだ。
「あのさ、おれ、オシリスレッドの一年生、遊城十代。あんたは?」
「同じく、レッド寮の三年生。名前は…」
 そうだな、と小さくつぶやく。
「ユウキ、とでも呼んでくれよ」
 あきらかにこっちをからかってる態度だった。万丈目くんがカチンと来たらしい。「おい」と横柄な声を出して、前に一歩踏み出す。
「ふざけるな。お前、何者だ? 十代の偽物か何かか」
「ちょ、ちょっと、万丈目くん…!!」
「うるさい! ――-オレはレッド寮の生徒は把握しているが、お前のような顔など見たこともない。そのディスクも見たことがないし、だいたい、ふざけた偽名なんて名乗りやがって。それは十代の名前だろうが! いったい、なにをたくらんでやがる」
 こたえろ、と怒鳴りつけられて、でも、その人は返事をしなかった。代わりにこっちをじっと見た。
 っ、と万丈目くんが息を詰めたのが、ボクにも聞こえた。その気持ちはボクにだって分かった。その人の表情にはボクたちをそれくらいたじろがせるものが、確かにあったのだ。
 ……怖い、とボクは思った。
 その人はゆっくりと手を上げると、アニキを指差す。アニキが眼を丸くする。かすかに笑みを浮かべる。わずかにくちびるの片端を吊り上げるだけの、挑戦的な表情。
「オレは、そこの遊城十代に、会いにきたんだ」
「へ、お、おれ!?」
「お前と、デュエルがしたい」
 それは、アニキにとっての、キラーワードだ。
 ボクは思わず一瞬だけ恐怖もわすれ、あわてて駆け出す。つんのめるようにしてアニキの腕に飛びついて、「ダメだよ、アニキ」と必死でしがみついた。
「翔、なんなんだよ…!」
「なんか、あのひと、怖いよ。普通じゃない。……いきなりデュエルなんて、危ないよ!」
 ボクは自分の《勘》なんてまるで信じちゃいない。でも、そのときばっかりは別だった。あまりに奇妙すぎる状況。奇妙すぎる相手。
 真っ直ぐにこちらを見る眼が何かを見通しているようで、アニキと見た目だけならそっくりのはずのとび色の目のどこかしらが、けれど、あまりにアニキと違っていた。たとえばそれが写真だって、映画のほんの一カットだったって、人なれした猫と闇夜に潜む豹を見間違えるやつなんていない。昇ってくる太陽と沈んでゆく太陽を見間違えるやつなんていない。たとえていうなら、その人とアニキの差は、そういう種類の決定的なものだった。似ているからこそ、本質に潜む違いがどうしようもなくあぶりだされる。そういった類の。
 ……《怖い》という言葉と、ボクの手に篭った必死の力は、さすがにアニキを動かしたようだった。
 アニキは困った顔でボクを見て、怖い顔をしてる万丈目くんをみて、それから、「えーと」と指で頬を掻いた。それからやっとその人に向き直る。
「あんた、その、ええと…… ユーキさん」
 見ての通りなんだ、とアニキはなんとも困った風に苦笑した。
「おれ、実はデュエル大好きでさ…… ほんとはどうしたってアンタとデュエルしたいんだけどさ」
 見なくたってわかるが阿呆、と万丈目くんが頭を抱えている。
「でも、なんか今むちゃくちゃ友だちに心配されてるみたいでさ…… ちょっとこれは、なんつうか」
「いいぜ。かまわない」
 ユーキさん、とアニキが呼んだその人は、けれど、意外なくらいにあっさりと言った。
「別に今晩じゃないとダメだってわけじゃないからな」
「マジで!?」
 とびついたアニキの返事は、あきらかに、《今日デュエルしないで済む》っていうニュアンスじゃなかった。…さすがに、どうかと思った。
 でも、眼を細めた《ユーキさん》の表情は、さっきよりずいぶん柔らかくなっていた。なんだかすごく大人びた表情に、すこし、緊張が緩んだ。相変わらず怖いけど。…でも、怖いけど、そんなに危険な人じゃないのかもしれない。うっかり警戒を緩めかけるボクを、万丈目くんがきつくにらむ。
 すこしだけやわらかくなった表情で腕組みを解いたその人は、やっぱりアニキにそっくりで、けれど、どこかしらが決定的に違っていた。眼を細める笑顔がきれいで眼を奪われた。こんなにも怖いのに、……矛盾しているのに、どうしてか、眼を奪われるくらいにイノセントな、透きとおるようなたたずまいだった。
「オレは、霧の夜には、きっとここにいる」
 だから、とその人は言った。
「ここで、お前たちを待ってる。……お前とのデュエル、楽しみにしているからな」
 万丈目くんが、わずかに、肩を震わせた。ボクにも分かった。背筋が震えたのだ。でも、それが恐怖なのか、もっと別のものなのかは、まるで分からない。
 でも、アニキひとりだけが、それに気づいているのかいないのか。
「ああ。おれも絶対にまた来るから。楽しみにしてるぜ、ユーキさん!」
 挑戦的な、それでいて、この上もなく楽しそうな声の響き。
 
 ―――こんな風に嬉しそうなアニキを止められるはずがないっていうのは、そのころのボクにだって、とっくに分かっていることだった。



 《続く》



まさかの四期×一期のクロスオーバーです。
うっかり続いてしまった…

 
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