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 『奇跡』の名残は、少女の額に残された、一粒の星。
「……あんなことが起こるとは、さすがに、思わなかった」
 ピーターはぼやく。……すべてが、終わって。
 戦死者、負傷者多数。だが、巨大な虚無への穴は消え、『虚獣』は幻次界から無事に取り除かれた。その顛末に起こった奇跡については、後々までの語り草になるだろう。
 ―――まさか、誰が思うだろう?
 神代をはるか離れたこの幻次界に、真の英雄が降臨するなどと。
 医務室に寝かされたクロスは、見るも痛々しい包帯だらけの姿だった。ピーターも決して無傷ではない。例外なのは一本釣だった。動使はベットの上で、眠り続けていた。
 あれほどの力を出したのだ、力を使い果たしたのだろう。眠ってはいるが体に異常は無いと医師も太鼓判を押していた。しばらくたてば眼を覚ますだろう。彼女の象徴であるところの『聖動光珠』も、しずかに宙に浮かび続けている。
 隣のベットの娘をいとおしげに見つめているクロスに、一本釣は、ややためらいがちに問いかけた。
「……あの方と、何を話してたんぜよ?」
 クロスは、自分の手に、視線を落とした。
 神代の、英雄。聖Vヤマト。
「あの方は、私を誰かと間違えてましたの」
 エンジェル、と呼ばれた。
 けれど、クロスは覚えている。自分はかつて、この名を名乗る前に『エンジェル』の名で呼ばれていたのだということを。そして、彼女のヤマトは長じてからもクロスのことを時折そう呼んだ。思いを込めて、優しく、エンジェル、と。
「でも、私もあの方を、別の人と一緒にしていたから、お互い様ですの」
 聖Vヤマト――― 神代の英雄。
 けれど、その面差しは、クロスのいとしい夫と同じだった。その魂もまた同一だとクロスは感じた。
 力こそ受け継いでいなくとも、ヤマト皇士は、たしかに伝説に残る英雄の片鱗を受け継いでいたのだ、とクロスは思う。
 神代の時代、彼と、クロスではない『エンジェル』の間に、何があったのか―――
 それは知る由も無いことだけれど、クロスには、何がしか理解できるような気がした。
「しかし、この『星』に、あんな力があったなんてね」
 ピーターはなんともいえない複雑さを含んだ声でつぶやき、自分の額の『赤幻星』をはじいた。
「ただの記憶のかけらだと思ってたけど…… なんだか、これ、もっとずっとすごいものみたいだよね?」
「あれを発動したってことは、動使が『動』のルーツを継いでるってことかが?」
 彼女の星――― 『紫動星』は、今は、動使の額におさまっていた。
 形はちいさな勾玉状に変わり、その額にしずかに光っている。あの時見せたすさまじい力など知る由も無い、ただの小さな紫珠のような姿になって。
 おそらく今が言うときだろう、とクロスは思う。静かに唇を開いた。
「ピーターさん、一本釣さん」
 二人が振り返る。クロスは言った。
「実は、クシナダちゃんは、私たちの子どもじゃありませんの」
「……!?」
 二人が瞠目する。クロスはいとおしげに動使を見つめた。
「昔、ここに派遣されてきたとき、次元の穴の向こうから、星が落ちてきましたの。その星を追いかけていったところにいたのが、クシナダちゃんだったですの」
 けれど、眠っているこのいとしい面差しは。
「でも、他人と思えないくらい似ているから、ヤマト皇士さんが、自分たちの子どもにしようって言ったんですの。それから、私たちの娘として育ててきましたのよ」
「……道理で、『お父さん』『お母さん』って呼ばないわけぜよ」
「そうですの」
 いつか本当の両親が現れたときのために、自分たちを父、母と呼ばせるわけには行かない、とヤマト皇士は言っていた。
 けれど、彼が動使に注いでいた愛情は、まぎれもなく本当のものだ。自分が動使に感じる愛もまた同じ。それだけは他の誰にも決して否定はさせない、とクロスは思う。
 くすり、と笑って、クロスは唇に指を当てた。
「でも、それはクシナダちゃんにはヒミツにしておいてほしいですの。……時がきたら、私からちゃんと話しますの」
「うん」
「わかったぜよ」
 少年たちはうなずいた。素直ないい子たち。クロスは眼を細める。
 そして、と思った。
「それと…… クシナダちゃんのこと、どうぞ、お願いしますの」
 二人は顔を見合わせる。そして、お互いにひじでお互いをつっつきあい、やがて、一本釣のほうが、口を開いた。
「本当に、いいんがか?」
「いいんですの」
 クロスは微笑む。
 ……このような定めを負っている娘ならば、辺境の『天涯境』に閉じ込めておくわけにも行くまい。
 動使はきっと、自らの『ルーツ』を知りたがるだろう。自分は何者なのか、自分は何を失ったのか、自分はそしてどこへ行くのか…… その答えは、きっと、七色の星の導く先に存在するのだろうから。
「そのうち帰ってきたくなったら、私がちゃんとお迎えしますの。だから、それまで私は元気でここで待ってますの」
 そう、自分は、死なない。
 幻次界も、守ってみせる。
「クシナダちゃんを、どうぞ、素敵なレディに育ててあげてほしいですの」
 クロスがそう微笑むと、なぜだか一本釣がぽっと赤面する。ピーターはくすりと笑う。クロスは動使の方を見る。
 今はまだ眠っている、いとしい、いとしい、大事な娘―――

 ヤマト皇士さん。

 静かに、いとしい夫の面影を思い出す。
 
 クシナダちゃんは、立派に、育っていますの―――

 英雄ならざる彼。けれども、その魂は、高潔なる神代の英雄と同一だった彼。
 彼の愛した幻次界は、きっと、守り続ける。そのいとしい娘と共に。
 そう思い、手を伸ばす。隣のベットの娘は、まだ静かに、来るべき旅も知らず、眠り続けていた。






ヤマエン好きだー!(笑)
というよりも十字架天使可愛い。祝の十字架ちゃんしか知らないけど、女の子らしい割に意外と強いのが可愛い。漫画版SBMの十字架天使と聖Vヤマトもベストカップルなので、十字架ちゃんは実は戦士っていうイメージが焼きついてます。
動使はふつーにヤマト王子です。なぜ『クシナダ』なのかというと、ヤマト→スサノオ→クシナダ姫という連想です。
あれ? それだとスサノオロ士になっちゃう? 

 

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