夢見て眠れ

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 ―――巨大なモニターに、その姿が映し出される。
 深紅の武装、額には宝冠。長くなびいた緑黒の髪とマント。そして手に携えられた宝刀。猛々しくも凛々しい面差しには、たしかに伝説に残る英雄の印象がある。
 はるか神代、この世界を救うため、次界への虹の架け橋となったといわれる、伝説の英雄。
「聖Vヤマト……」
 その斬檄が放たれる同時に、まばゆい光が、暗闇を打ち砕く。
 さらに、その光は次元の亀裂にまで到達し、そこにあったはずのほころびを完全に打ち消した。それを見て取った英雄は微笑み…… 同時に、ふっ、と力を失ったように落下する。
 天涯警備隊の女隊長の腕の中、英雄が少女の姿へと変わっていくまでの様を、彼は、じっと見つめていた。
「神代の再現、か……」
「どう思われますか、マルコネオン様?」
 副官に声をかけられ、男は振り返る。緑の髪の美丈夫。手に携えた杖が、かっ、と床をたたいた。同時にモニターが巻き戻され、再び、英雄光臨の奇跡の様を映し出す。
 それを凝視する男の名は、幻次界王マルコネオン。
 マルコネオンはモニターを見上げながら、静かに思案しつづけていた。
 天涯警備隊から送られてきた映像。それは、幻次界の果てで起こった、ひとつの奇跡を記録したものだった。
 伝説にその名を残すのみの英雄が、ふたたび、この世界へと姿を現した―――
 軽く杖をかざすと、モニターが消える。その部屋に控えている影は二つ。一つは副官のサイバー司教。そして、もうひとつは、水色の巻き毛に蔦の冠を抱いた、まだ年若い青年の天使だった。
 壁に背を預けて、腕を組んだ姿。ここにあの映像資料を持ってきたのは彼だ。元からそれが何を意味しているかを理解しているのだろう。マルコネオン、サイバー司教の視線の前で、彼はゆっくりと口を開く。
「……何十年かの間、この地上に、七つの星が降り注いだ……」
 それは、明確に残された記録ではない。
 このほころびた世界には、時に、さまざまな世界からの来訪者が訪れる。天涯警備隊が戦う虚無や怨霊などのようなものもあれば、祝福となって降り注いでくるものもある。なればこそ、七色の星のかけらが天から降り注いだという事実も、今までは見過ごされてきた。この幻次界が『幻』の名を関するように、はかなくもろい世界であるからこそ、時にさまざまな変異が起こる。異界から星が降る、ということ、しかもそれが何十年もの時間を経てばらばらに降ってきたという現象など、見過ごされていて当たり前だったのだ。
「けれど、七つの星のひとかけらが、あのような奇跡を起こした」
 マルコネオンが言うと、水色の髪の青年は、うなずいた。
「調べてくれるか、遊公男ジャック?」
「ああ」
 答える――― そして、不敵な笑み。
「でも、オイラは『聖命』なんてもんに、従うつもりはさらさらないぜ」
 仮にも幻次界王ともあろうものあいてに、あまりに不敬な物言い。サイバー司教はやや渋い顔をするが、マルコネオンは笑顔でうなずいた。
「ああ。……お前に何かを強いるつもりなど無い。ただ、お前はいつものように、任務を果たしてくれればいいだけだ」
「わかった」
 伝説の七神帝か、と水色の髪の青年はつぶやく。
「面白そうだな。楽しみだぜ」
 ばさり、と背の白い翼が翻る。
 かつ、かつ、かつ、と足音を残して、彼は部屋を出て行く。その後姿を見送るマルコネオンに、サイバー司教が、ためらいがちに声をかけた。
「……マルコネオン様、あれでいいのですか? 彼は……」
「ああ、かまわない」
 マルコネオンは静かに答えた。そして、今は暗くなったモニターを見上げる。そこにはもう神代の英雄の姿はない。けれど、その神々しくも凛々しい姿は、はっきりと眼に焼きついている。
 彼の顕現は、果たして瑞兆か、凶兆か。
「もしかしたら、これで、『異夢姫』も救われるやもしれんからな」
 つぶやくマルコネオンの横顔を、サイバー司教は、複雑な表情で見つめていた。



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