二人デ居タレド マダ淋シ。
一人ニナツタラナホ淋シ。
シンジツ二人ハ 遣瀬ナシ。
シンジツ一人ハ 堪ヘガタシ。
【片恋心中】
政宗は、血が好きだった。
戦場で流す血は無論だ。さもなくば刑場で逆さ磔の憂き目にあった罪人が流すものでも、無辜のものが流す血でもいい。あの鮮やかな色彩、その猩々緋にも勝る美しさが、一瞬にして黒ずんだ色へと朽ち果てて腐りはてる儚さ。鉄臭いあの匂い、あのぬくもり、全てが、好きだった。
今はすでに過去のことになったけれど、かつて政宗が誰からも愛されぬ子どもだったころ。あの美しい紅に惹かれる思いは、今よりもずっと、焦がれるほどに、飢えるほどに、強い憧憬だったころもある。
血が見たかった。血を流し、次第に動きを止め、冷たくなっていくものたちを見たかった。政宗は血を流し、死に行くものたちを愛した。彼らは死に行くそのとき、美しいからこそ愛した。死へと向かう短いシークエンス、命はそのもろさ、弱さを生々しくさらけだし、命というものの痛々しいまでのはかなさを知らしめた。
……今ではもう、秘めることを知り、己の心の奥深く、埋めることを覚えた欲望だけれど。
……それでも今も、この淡い憧憬を、棄て去ることだけはできない。
すべての生き物の皮膚の下を流れる紅。
夕映えよりも、唐渡りの布よりも、はるかに美しい、あの、はかない紅。
どのような名工の手を持っても、どのような妖術使いの技を持っても、あの紅を超える鮮やかさなど、作り出すことはできないだろう。
鮮血の赤。一瞬にして色あせ、失われる定めの赤。
指の間をすり抜け、失われゆく、たゆたうように儚い赤。
孤独の中に閉ざされた少年のころ、遠い山のかなたに暮れゆく夕日を焦がれたように。
今もまぶたを閉じれば、そこには、時の中で失われ行く定めの赤の、美しい彩が、幻のように浮かび上がってくる。
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