バレンタイン・ウォーズ!





「……合言葉は」
「《のばら》」
「よろしい。あなたは同志フリオニールね? それでは、今日の評定をはじめます。生徒会とルサンチ一派の現状について。では同志ロックから」
「ああ。生徒会のほうに探りを入れてみたんだけど、どうもエド…じゃなくって、会長が本気で動き出すことにきめたらしい。理科室と図画工作室から大量の工具が持ち出されてる」
「理科室? そんなもん、どうするつもりなんだ」
「アイツはガラクタが趣味なんだよ。なんかイロイロなもんをくっつけ合わせてヤバめの機械類を量産してるみたいだ。でも、そっちはまだいい。問題は購買のほうでさ……」
「続けてちょうだい」
「購買のおばちゃんたちはほとんどが会長に懐柔されてる。そこで大量のポーションが生徒会一派に流れてるって情報を掴んだ」
「……別に、いいんじゃないか? ただの差し入れとかだろ。生徒会の連中だって喉ぐらい渇くだろうし」
「いや、問題はそこじゃなくて、同時に栄養ドリンクだのサプリメントだのドクターペッパーだのマックスコーヒーだのも買い込んでいるらしいという噂で」
「……」
「……」
「あと、去年の冬にガウが山でとってきた変なキノコが調理室に保存してあったらしい。それも全部もってかれたって。食ったやつが笑いながらパンツ脱いで踊り出したとか、その後3時間便所に閉じこもってたとか、神が私の頭にアドホック通信で予言を伝えたーとか叫んで温室の屋根に上って踏み抜いたりしたアレ」
「なんでそんなもんとっといてるんだよ!!」
「俺に聞くな。んで、そのへんを全部まとめて考えた結果、生徒会はハイポーションの錬成を目論んでるんじゃないかって結論にたどり着いた」
「……そ、それってハイポーションというか廃ポーショ…… 確かに、危険情報ね……」
「というか、理科とか図画工作とかの先生はどうしてるんだよ!!」
「美術はケフカだろ、あんなん止めるだけ無駄だって。あと理科室は現在もぬけの殻。セフィロス先生は昨日から行方不明。ルサンチ一派にまぎれこんでいるんじゃないかって噂もある」
「(クラウドを探してるのか…?)」
「わかったわ…… 会長が動き出したんだったら、こっちも本腰を入れて生徒会に対抗することを考えないとね。相手は正規軍ぞろい、ルサンチ一派の雑魚と一緒にしていい相手じゃないわ」
「まさか、会長がそこまでアホなことはやらないだろ?」
「おいフリオニール、エドガー舐めんなよ。あいつ、ああ見えてやるべきことは真面目にやるけど、一度悪乗りしだしたら手に負えないんだから。マジで。」
「……先輩がそう言うんだったら、そうなんだろうな」
「では、次はルサンチ一派の動きについて。同志リディア」
「はーい! 昨日までの反乱軍の攻撃によって、ルサンチ四天王のうち2人までを倒すことに成功しました。大勝利だよね」
「マジか! えらいぞリディア!」
「ありがと。でも、私がやったんじゃないよ。みんなの協力あってこその大勝利だもん」
「(…誰が《召喚》されたのかしら。エッジ?)」
「まず、最初の報告として、同志レナおねえちゃんとファリスさんの尽力により、水のカイナッツォを撃退。どうも歴史のエクスデス先生の動向がおかしいって二人が言ってたんだけど、中身が入れ替わっていたみたい」
「……! そうか! あの穏やかな性格の先生がここ最近様子がおかしいと思ったら、入れ替わり…… クソッ、ルサンチ一派め」
「いや、つーか、あの人中身が誰と入れ替わっててもわかんないだろ。鎧なんだから」
「中身のエクスデス先生はどこいったの……」
「わかんない。でも、裏の焼却炉のあたりに、おっきな木の切り株が捨ててあるの見たって噂を聞いたよ。でもこれ、関係ないよね?」
「ないと思いたい……」
「深く追求するのはやめておきましょう。では、次はだれ?」
「えっとね、高等部棟から部室棟へ続くところの橋部分があったでしょ? あそこを封鎖していた土のスカルミョーネが撃退されたよ。これで高等部棟と部室棟との通路が開通。遠回りしないでよくなったから移動がかなり楽チンになったよ!」
「それは助かるな! これで部室棟に隠れてる同志とも連絡が取れる!」
「でも、誰がやったんだ、それ? あそこ狭いから後回しって話になってなかったか? なんかバリケードとかもあったし」
「うんこれがね…… 私たちのやったことじゃないみたいなの」
「え?」
「なんか、ココ最近怪人《マスク狩り》ってのが出没してて、最強のマスクを探してるみたいなのね。それで、あそこの橋に陣取ろうと思って場所よこせって言ってきたんだって。激戦の結果、両者KO。とりあえずあたしは両方橋の下に捨てただけ」
「……誰だよ。その怪人というか、あからさまに変なヤツは」
「しらなーい。『バッツはどこだー!』とか『最強のマスクじゃないのかー!』とか言ってたらしいって聞いたけど」
「……彼の冥福を祈って、あの橋の名前はこれから『ビッグブリッヂ』と呼ぶことにしましょう」
「いや、さすがに死んでないだろ」
「最後に、同志フリオニール。アナタからの報告は」
「……」
「なんだその顔。なんかあったのか?」
「……ルサンチ四天王の残りの二人、コードネーム『風のバルバリシア』『火のルビカンテ』の正体が分かりました」
「え、ルビカンテのほうも!?」
「バルバリシアのほうは、あきらかにあれミシア先生だよね…… ほぼ全裸に白衣だもんね…… そんなことする先生、一人しかいないもん」
「じゃあ、最後の一人は誰なんだ? あいつだけは俺にもわからなかったんだよな。というか、どうして分かったんだ、フリオ?」
「……」
「顔色が悪いわよ、フリオニール…… どうしたの」
「先に、ひとつお願いがあります。それを聞き入れてもらえたらちゃんと話します」
「おい、内容言うよりも先にそれって」
「許可します」
「ローザ?」
「なんだか、ただ事じゃなさそうだし。仕方ないわよ」
「ありがとうございます」
 フリオニールは、そう言って、狭苦しい体育倉庫に集まった同志たちに深く頭を下げた。そして顔を上げたとき、そこには彼の苦悩、というよりも、なんとコメントしたらいいのか分からないとしか言いようのない困惑の刻まれた表情がある。フリオニールはぼそぼそと低い声で答える。
「火のルビカンテの正体は、俺の、友人なんです。……とても辛いことがあって闇に囚われてしまったらしい。だからせめて、引導ぐらいは、俺の手で渡してやりたいんです。友人として」
「それって……」
 金の髪の美女は眉を寄せる。フリオニールは答えた。
「火のルビカンテの正体、というか、中身は…… 俺の友人の、バスケ部のティーダなんです」