ラストターン ○○は大変なものを盗んでいきました 《今回の行動宣言》<BR> 遊城十代 《3:フリーアクション》<BR> ヨハン・アンデルセン 《3:フリーアクション》<BR> 万丈目準 《2:特技使用》”名推理!” <BR> エド・フェニックス 《3:フリーアクション》(*アイテムを使用)<BR> 天上院吹雪 《3:フリーアクション》<BR> 丸藤翔 《2:特技使用》 ”サポートNPC:ヘルカイザー亮”<BR> ティラノ剣山 《3:フリーアクション》<BR> 1:食堂 《全メンバー》(*吹雪除く) 「―――これはいったいどういうことなんだ、万丈目?」 カッ、と雷火がひらめき、寡黙な男の横顔を照らし出す。万丈目の後ろに隠れたおじゃまイエローは、いかにも恐ろしそうにそこに集まった一同を見渡した。 テーブルに満載されていた菓子類や飲み物から危険物が取り除かれ、テーブルのまわりにはそれぞれの決闘者たち…… 部屋の隅っこでは剣山がエドの火傷に包帯をぬってやっており、逆のほうではトパーズタイガーの体をソファ代わりにしたヨハンがふてくされている。 そこにあつまっている決闘者の人数は、8名。 すなわち、遊城十代、ヨハン・アンデルセン、万丈目準、エド・フェニックス、丸藤翔、ティラノ剣山。そして、さらにはジム・C・クック、オースチン・オブライエンの二人の姿も見える。 万丈目は腕を組み、ぐるりと周りを見回した。 「……師匠がいないな」 「召集に気付いてないんじゃないんっすか?」 おずおずと声をかける翔。だが万丈目は、「いや」と首を横に振った。 「十代の協力も借りて、この温泉施設の全館に連絡を行った。師匠だって絶対に気付いているはずだ。さっきまでのジムのように昏倒しているか、さもなくば、故意に呼び出しを無視しているんではなければな」 「どういうことなんだ、万丈目」 エドが、いらだった声を上げる。「動いちゃダメドン!」と剣山に言われて、やや、勢いを収めるが。 「この状況なら、外に助けをもとめられるはずじゃないか。なんでわざわざ、こうやって時間を無駄にしないといけない?」 「そうだぜ」 憮然と答えたのはヨハンだった。ふさふさの毛皮からいきおいよく起き上がる。 「ジムのことにしたって、ただの事故だったってわかったんだからさ、あとは、きちんと外に今の状況を説明すれば俺たちのやることは終わりだろ」 「事故…… よりにもよって事故扱いっすか……」 「それより返せよ!オレの缶詰!」 楽しみにしてたのに! と言っているヨハンは、放っておいたらまた騒動を起こしそうだ。万丈目はややひるみながらも、「静かにしろっ」と大声を上げる。 「ちょっとみんなー、なんか面白い話をしてくれるらしいぜ、万丈目が!」 「万丈目じゃない、万丈目サンダー、だ!」 十代の台詞で、なんとか注目を集められる。万丈目はコホンと咳払いをした。 「そもそも…… 今回の事件についてだ。なぜ、こんなことが起こってしまったのか。こんな事件が起こったことに、どんな原因があったのか。お前ら、それが分かっているのか?」 「Well……」 お互い、顔を見合わせる。首をかしげる。「げんいん?」と十代は首をかしげる。 「いや、というか、そもそもこれって【事件】なのか? ヨハンのとっといたアメを間違えてジムが食べてさ、それと同時に異界化が起こって。それだけじゃん」 「それは事件だろうがッ!!」 何人もの声が唱和して、そもそも、誰が怒鳴ったのか分からない。総ツッコミを喰らった十代は思わず首を引っ込める。放っておくとあっちこっちと暴走してしまう連中をなんとかまとめられたと見定めて、万丈目が、びしっ、と言い放った。 「これは事件だ。殺人…… いや、いくつもの思惑が絡み合った結果、この【クローズド・サークル】が形成され、俺たちはこの謎に直面させられた」 だが、そこに謎が存在する以上、答えも存在するはずだ! 「この謎はかならず俺が解いてみせる。万丈目サンダーの名に置いて!!」 ぴしゃーん! 同時に雷が外で落ち、部屋の中が照らし出される。 出来すぎ、といえば、出来すぎのシチュエーションであった。 「万丈目くん、ノリノリだね……」 「うん、ノリノリザウルス」 ぼそぼそとささやきあう二人にかまわず、万丈目は、腕組みをしたまま、ゆっくりとテーブルの周りを歩き始める。ひとり、またひとりと、集まった決闘者たちの眼を、覗き込みながら。 「そもそも、この事件は、二つの出来事が重なり合った結果によって起こった事件だった。まず、ジム・C・クック殺害事件」 ジムがぎょっとしたような顔をする。声を上げた。 「待てよ! いつオレが殺されたって!?」 「お前がぶったおれてる間にだぜ」 ヨハンがあっさりと言うので、何人もの視線がそこにつきささる。「なんだよ」とヨハンは顔をしかめた。まったく反省していない。 すぐに集中力がなくなる面子に青筋を立てかけながらも、万丈目は辛抱強く続けた。 「―――そして、このDA温泉施設の孤立現象だ。これは、それぞれがお互いに関係の無い事件だったといえるだろう」 だが、と万丈目は続ける。 「まったくもって無関係というわけでもない。そもそも孤立現象が起きなければジム・C・クック殺害事件は『事件』として認識されなかっただろうし、孤立現象が起こったというのもオレたちがここに集まっていたということと無関係じゃない」 「なんだそれ、どういうこと?」 十代が首をかしげる。 息を大きくすいこむと、万丈目は、オブライエンのほうをキッとにらんだ。オブライエンは平然とその視線を受け止める。 「おい、オブライエン。お前は、この嵐を突破して、この館内へとやってきた…… そして、まずオレたちがどうしているかを確認したらしいな。そうだろう、翔、剣山?」 「え、あ、……た、確かに」 オブライエンはわずかに顔をしかめた。「そうなのか?」と十代が思わず、といった風に問いかける。 「そもそも、なんで突破してきたのが"オブライエンだった"のか」 「……依頼を受けたからだ」 「依頼? そこが、問題なんだ。どうしてよりにもよって、人員を大量に集めることができるDAで、"オースチン・オブライエン"がこの仕事に選ばれた? 他の誰でもなく、DAサウス校チャンプのオブライエンが?」 オブライエンが渋面を深くする。まったく分かっていない、という顔のほかの連中。だが、ほんのわずか時間があいて、「……あ!」とヨハンが声を上げた。 「そっか、共通点がある! オレらとオブライエンに!!」 「What`s?」 「ほら、ここにはオレがいて、ジムがいて、オブライエンがいる。オレら、いちおう、各校のチャンプだ!」 それじゃないのか? そう問いかけられて、何も答えないにしろ、オブライエンの表情は苦々しい。万丈目は深く頷いた。 「そうだ。これは予想なんだが、この学校の外にはアモンもいるんじゃないのか? もしかしたら、カイザーもいるかもしれない。だが、忠誠度って意味だと、二人はオブライエンにかなり劣る。きちんと機密を護り、任務に忠実で、かつ、デュエルの腕に置いてここに取り残された面子と対等以上に渡り合える相手、という風に考えると、お前が選ばれたのも納得がいく」 「……行くのか?」 間抜けなことをいいかけた十代の頭を、万丈目は無言でぶんなぐった。痛え! と悲鳴を上げる十代の頭を押さえ込むようにして、「続きもまだある!」という。 「さらに、ここにはヨハンだけじゃなく、エドもいるし、十代もいる。I2社のペガサス会長は、お前らのことをかなり評価しているからな。仮に、この空間の中で決闘をした場合、それに勝てる、勝てなくってもある程度以上対等に渡り合える相手を選ばないといけなかった」 「―――おい、万丈目」 いままで黙っていたエドが、ふいに、口を挟んだ。 「なんだ」 「お前は、そもそもこの状態を切り開くには、『決闘者』が必要だということを前提にして話しているな」 「ああ、そうだ」 「何故だ?」 その発言に対して、反応が真っ二つに割れた。すなわち、【どうしてそんな当たり前のことを疑問だと思うのだ】という反応と、【やっと疑問に思って当たり前のことを聞いてくれた】という反応と。 「え、だって…… そりゃ、デュエルで勝てないと困るからだろ?」 「そうだよ。そもそも、こんだけ決闘者が集まってる中に、勝てる自信がないやつを送り込んだってしょうがないだろ」 平然と反応するデュエルバカ二人。常識のある面子は黙るしかない。何かおかしいことを言ったかと、十代とヨハンは顔をお互いに見合わせ、それから、慌ててまくしたてはじめる。 「ほ、ほらだってさ、この中だと精霊が実体化してるじゃんか! だったら、精霊を使えないやつじゃあ、まともに動けないよ」 「そうそう。だから十代とオレがこの中だとさいきょ…… あ」 だが、十代よりもある程度頭がいいらしいヨハンは、喋っている最中で、自分の言っていることの矛盾に気付いたらしい。 黙るヨハン。眼を丸くする十代。深い深いため息をつくほかのメンバー。 「十代、冷静に考えろ」 エドが、冷たい、というよりも、あきれ返ってものも言えない、という口調で言った。 「普通、"精霊は実体化しない"んだ」 「そうなのか?」 「そうだった……」 《そうなんだよ》 きょとんとする十代、やっと納得するヨハン、そんな主人にため息をつくトパーズ・タイガー。 《つまりだ。そこのあんちゃんをここに突入させたお偉いさんは、中に入ればオレたちとガチンコをする可能性があるって知っていたと。それで、かつ、そういう状況になってもオレらとケンカして勝てる自信がある、しかもある程度の無茶とか乱暴ができるやつを選ばないといけなかった。その結果がそこのあんちゃんだった》 「そうだ。そして、つまりペガサス会長は、この異界化のことを予想していたし、もっと言うなら、オブライエンひとりを突入させるというミッションを敢行しないといけない《理由》があった……」 オブライエンは黙っていた。それこそ、石のようにだんまりを決め込んでいた。 理由、については黙秘を貫き通す構えをとりはじめたオブライエンに、万丈目が苦い顔になる。だが、それに対して、横から翔がおずおずと口を挟む。 「ミッションの目的は、《青眼の白龍》を回収すること…… だった、っすよね?」 その瞬間、《名探偵》だったはずの万丈目が、一番先に吹き出した。 「ぶ…… ブルーアイズだってぇ!?」 《青眼の白龍》。言わずと知れた、KC総帥海馬瀬人の最愛にして最強のエースカードだ。そこにあつまった人々の大半が、すくなからず動揺を見せる。一部を除いて。 十代は、ちらりとヨハンのほうを見た。ヨハンは少し笑い、ぱちりと器用に片眼を閉じてみせた。 そこまでバラされては、もはや仕方が無い、と覚悟したのだろう。オブライエンは深い深いため息をついた。 組んでいた腕を解いて、代わりに、腰のホルダーに手をやる。そこにあるのがディスクではなく拳銃だと知っている翔がすくみ上がる。だが、オブライエンはそれを抜くつもりはないようだった。静かな口調で言う。 「―――大体は、お前らの、予想通りだ」 「よそう……」 推理だ、と言い返したそうな万丈目だったが、しかし、エドににらまれてなんとかこらえる。オブライエンは淡々とした口調で言い始める。 「オレがペガサス会長からこのミッションを申し入れられたのは、二日前だ。このDAに嵐が発生するよりも、ほぼ、30時間ほど前に当たる」 その頃には、オレはまだミッションにあたるエージェントの中の一人に過ぎなかった、とオブライエンは言った。 「だが、ペガサス会長は、ある程度この事態を予測していたらしい。そもそも、《青眼の白龍》の失踪のシチュエーションが特異すぎたからな」 ブルーアイズは、とオブライエンは言った。 「カードごと盗まれたのではなく、テキストとイラストだけが消えていたんだ。鑑定の結果、摺りかえられたのではなく、その中の《精霊》だけが抜けてしまっていたのだということが判明した」 エドの反応は冷静極まりなかった。 「そんなヨタ話、誰も信じないだろうな」 むっとしたようにヨハンが言う。 「ヨタ話ってこたあないだろ」 ジムが二人のあいだに割ってはいる。 「いや、一般人にとってはヨタ話なのは確かだ。精霊の存在を実際に信じているものも、認識しているものも、決闘者の中だけで考えても極々少数派だからな」 振り返ったジムは、オブライエンのほうを見る。オブライエンは頷きもしなければ、首を横に振りもしない。 「だが、ここには実際、具現化した精霊が存在する」 《いるわヨ〜》《いるぜ》《くりくり〜》 それぞれ、片手を上げる妖怪とトラと毛玉。合成だ、とでも言われないと頭がおかしくなりそうな光景ではある…… と万丈目は思った。 いや、自分は、数年ばかり前から、常にこういう世界にいるのだが。 そして、ここにあつまっている連中のほぼ全員はこういう世界におなじみで、さらに二人ほどは、ほぼ生まれつきこういう世界の住人なのだが。 「精霊がいなくなった…… でも、精霊は自分だけだとカードからあんまり離れられないし、自由に動き回ったりもできない……」 つぶやく翔に、万丈目が、「だが、例外もある」と続ける。 「それは、ここだ」 デュエル・アカデミア本校。 絶海の孤島にある、全寮制の決闘者の学園。 だが、この島は同時に、さまざまな奇妙な魔法の業が折り重なって地層を作り出している、奇妙なポイントでもある。封印された三幻魔、異世界へと続く遺跡、さらには、それらの闇の業について精通した男を、半ば納得ずくで教師として雇い、生徒たちをも巻き込んで闇の世界の業を研究していたという事実すらある。 「―――! そうか、青眼の白龍か! どこかで見たことがある、と思ったら!!」 思わず声を上げる万丈目に、剣山が「どういうことドン?」と首をかしげる。十代が答える。 「お前が入学してくるよりも前に、おれ、ここで決闘したことあるんだよ。カイバーマンってヤツと。そのとき、青眼の白龍とも戦ったぜ! すごいかっこよかったなあ!」 いかにも十代らしい余計な一言は置いておくとして。 「つまり、青眼の白龍が、どんな理由にしろ姿を消したとき…… 誰かに精霊を抜き取られたのではなく、自分の意思で抜け出したのだとしたら、必然的に《精霊がカードの中にいなくても存在を維持できる場所》に潜伏せざるを得なかった。それが、お前がここに来た理由、というわけか」 「おいエド、人の台詞を取るなっ!」 「そんなささいなことを気にしている場合じゃないだろう。度量が小さい男だな」 「なんだとぉ!?」 ヨハンは横を見た。十代が黙り込み、考え込んでいる。ハネクリボーが心配そうに肩の辺りでパタパタと羽を動かしていた。 ヨハンは、十代から聞いた話を反芻する。 そして、考え込みながら、ゆっくりと言った。 「じゃあ、オブライエン…… この嵐を止めるには、この場所の異界化を解くか、もしくは、それを引き起こしてる青眼の白龍を無力化するしかない、ってことか?」 「……!」 十代が、はっと顔を上げる。 「そうだ」とオブライエンは短く答えた。 「んで、まだ訊いてないことがひとつ。青眼の白龍が姿を消したのは、KC本社でだった。で、そこからココまではかなり距離があるけど、そこをクリアするためには誰か《運び屋》になるやつが必要だと思うんだけど?」 「……もう、応える必要は無いだろう」 がちゃん、と音がする。オブライエンが銃を抜いたのだ。 そのまま、有無を言わさず歩き出し、部屋を出て行ってしまう。唖然とそれを見送っていたのは一瞬のことで、すぐに弾かれるように立ち上がった十代が、「待てよ!」と慌てた声を上げた。 「おい、どうしたんだ、十代?」 「だ、だって、吹雪さんと明日香が!」 なぜ、ここでいきなり天上院兄妹の名前が出るのだ? おもわず、万丈目は、目の前を駆けて行こうとする十代の襟首をひっつかんだ。「ぐえっ!」と言って十代がしりもちをつく。 「おい、師匠と天上院くんが、どうしたっていうんだ?」 「げ、げほっ、だって、……けほっ!」 むせかえりながらも、十代は、答えた。 「ブルーアイズは、明日香といっしょにいるんだよ。たぶん、吹雪さんも!」 「……ン、だってぇ!?」 十代はむせすぎて半ば涙目になりながら、「このままじゃ、二人ともオブライエンにぶっちめられちまう!」と主張する。 「お前もおぼえてるだろ? 明日香、一度、"白夜デッキ"をつかってたことある。青眼の白龍とは相性悪くないはずなんだよ。だから、」 「それだけの理由じゃ、天上院君が犯人だって証拠にはならないだろうが!」 「だって、明日香の目が青かったんだぜ!?」 十代の言葉に、思わず、万丈目は声につまる。十代は立ち上がりながら、「はじめて見たときからそうだったんだぜ!」と、とんでもないことを言い出した。 「吹雪さんとかはぜんぜんそう見えないって言ってたけど、オレが初めてココの中で明日香を見たときから、あいつ、態度も変だったし、大体、眼の色が真っ青に変わってた! あれ、絶対にブルーアイズのせいだ! ……オブライエンが気付く前に、なんとかしないと!」 普段、周りからは"電波"といわれている十代の発言が、ここにきて、あまりに説得力がありすぎた。 普段と態度が違う、デッキやモンスターの使用コンセプトが似通っている、というだけならばただの偶然や気のせいですむところが、十代の口から異変について言われてしまう。 ましてや、あの明日香が、青いひとみになっていたという…… しかも、十代ひとりにしか見えない形で。 決定打となるには、十分すぎた。 十代はそのまま、「行くぞ!」とハネクリボーに声をかけて、食堂から走り出していく。それに「ま、待ってよ!」とつられたように走り出したのは翔だった。二人は、オブライエンを追いかけて、食堂から駆け出していってしまった。 《その1》 《その3》(まだUPしてません) ←back |