あるところに、たくさんの、茶色い鳥たちが暮らしておりました。鳥たちは草の実を食べるのがすき。みみずや地虫をたべるのがすき。鳥たちは木の下でおしゃべりをするのがすき。そして、地面をはしりまわり、土に掘った穴の中で、身体をくっつけあって眠るのが好きでした。 春は、鳥たちの子どもが生まれる季節。たくさんの真っ白い卵から、ふわふわした茶色いひなたちが生まれました。けれど、なぜか、たった一羽だけ、白いひなが生まれてきたのです。 鳥のおかあさんたち、おとうさんたちは、みんな、困ってしまいました。 「なんでこの子の羽は、こんな風に白いのかしら」 「こんな色の羽をしていたら、きつねやいたちに、すぐ、見つかってしまう」 茶色い鳥のひなたちは、地面を引っかいて、みみずや虫を見つけるのが、好き。なのに、白いひなは、虫をつかまえるのがへたくそです。 「こうやって地面をひっかくのよ」 茶色いおかあさんは、いっしょうけんめいにおしえます。 「上手に虫を取れないと、おなかがすいて死んでしまうわ」 「はい、おかあさん」 白いひなは、いっしょうけんめい地面を引っかきます。でも、そうするとひなの足はぼろぼろになり、あっという間に血まみれになってしまいました。 茶色い鳥のひなたちは、木の下でおしゃべりをするのがすき。みんな、土で出来た笛を吹くように、上手にうたをうたいます。なのに、白いひなは、じょうずにうたをうたうことができません。 「わたしたちのうたをまねてみるだけでいいのよ」 茶色いおねえさんたちは、いっしょうけんめいにおしえます。 「まねっこをしてみるだけでいいの。きれいに喉をならしてごらん。そうすれば、うたがうたえるわ」 「はい、おねえさんたち」 白いひなはいっしょうけんめいにうたをまねをします。けれど、ひなの声は金の笛を吹くようで、ほかのみんなの半分も上手にうたえませんでした。 茶色い鳥のひなたちは、走り回っておいかけっこをするのがすき。そうして夜にはやわらかい土に掘ったおうちの中で眠ります。でも、白いひなは走るのがへたくそで、ほかのみんなのように、走り回ることができません。 「ねえ! 君も、もっとがんばってはしってごらんよ」 茶色いひなの友だちたちは、そう、呼びかけます。 「やぶの中を走ったり、茨の中をくぐったり、そうやってかくれんぼうをするのはとってもたのしいよ。そうして、つかれたら穴の中で眠ろうよ」 「うん、みんな、ぼくやってみる」 けれど、やぶのなかにもぐると、大きな羽が小枝にひっかかりました。茨の中を走り回ると、真っ白な羽はひっかかれてずたずたになりました。しかも、大きな羽がじゃまになって、白いひなはみんなのように穴の中に入れないのです。 「どうしてぼくはみんなとちがうのかしら」 ある日、ひなは、つくづくと思いました。 「ぼくの羽が白いからかしら」 そうしてひなはかんがえました。せめて羽が茶色くなったら、みんなとおなじになれるかしら。そうおもったひなは、泥の中をころげまわり、羽を茶色くそめました。そうすると、なんだかみんなと同じになったようで、ひなはうれしくなりました。そうして茶色い仲間たちは、みんな、白いひなが大好きだったので、おんなじ茶色になれたことをよろこびました。 ひなはやっぱり虫もとれず、うたもうたえず、はやくも走れなかったけれど、大好きな仲間たちといっしょにいられて、充分すぎるくらいしあわせだったのです。 けれど、ある日。 茶色い鳥たちが野原でひなたぼっこをしていると、とつぜん、大きな狐が現れたのです。 びっくりぎょうてんした鳥たちは、てんでばらばらに逃げました。けれど、茶色く染めた白い鳥は、みんなと同じようにかけられないので、狐につかまってしまいました。白かった鳥は、狐に一咬みで首を折られて、ものも言えずに死にました。 「なんておかしなことだ」 狐は言いました。 「こいつは白い鳥じゃないか。どうして海ではなく野原にいるんだろう。どうして飛んで逃げないんだろう。こいつは世界の端から端まで、飛んでいくことができるような鳥なのに」 けれど、茶色く泥で固まった羽では、とうてい空など飛べません。狐はふしぎそうに首をかしげながら、ばんごはんとして、おいしく白い鳥を食べました。 後にのこったのは、ばらばらに散らばった、泥でよごれた羽だけ。 残された茶色い鳥たちは、みんな、みんな、とても哀しみました。 「どうしてあの子は走れなかったんだろう。どうしてあの子は歌えなかったんだろう。空にいる鳥の神様、どうしてあの子にわたしたちと同じ足と、同じ羽と、同じくちばしをあたえてくれなかったのですか」 茶色い鳥たちは、みんな、哀しみでいっぱいになり、たくさん涙をこぼしました。茶色い鳥たちは、みんな、白い鳥のことが、大好きだったのです。 ―――そして、それがいちばん始末に終えないことでした。 > back |