「ミネ、ミネ―――っ!!」
―――まぶしい光の下で眼を覚ましたとき、初めに感じたのは、頬に触れる誰かの涙だった。
泣いている。誰だろう? 太陽がまぶしい。けれど、次の瞬間、誰かの腕が全身の力で身体にしがみついてくる。
「もう、もう!! すっごい心配したじゃん!!」
「メルクリン……?」
潮焼けした藍色の髪。日焼けした肌。ぼんやりと意識を取り戻すと、自分は、どこかの船の上にいる。どこだろう。見回してまもなく気付く。マルコたちが旅に使っていた、ワッPの上だ。
友は、メルクリンは、少女に…… ミネルンバに抱きついて、恥も外聞も構わず、大声を上げて泣いている。何があったんだろう。それも思い出せずにぼんやりしていると、傍らから手が差し出された。
「大丈夫、ミネルンバ?」
白い顔の、どこかしら妖精めいた容姿の、幼い少女。
「プッチー……?」
「どこか痛くない? 気分は悪くない?」
「平気でございますけれども……」
「マルコたちとね、他のベイギャルズのみんなにも、あなたが見つかったって知らせたわ。もうじきここに来ると思う」
無事みたいでほっとした、といって、少女は胸をなでおろす。何がなんだか分からない。泣いていたメルクリンは顔を上げて、ぐすっ、と鼻をすすった。
「ごめんじゃん、ミネルンバ。あたいのせいで……」
「……」
そうだ。
自分たちは、確か、このあたりに現れた正体の分からない化け物とやらについて調べるために、ここに派遣されてきたのだ。
かつての曼聖羅の果て。だが、女神が不在のこの世界はまだ不安定で、異変について調べるため、彼女たちの力が必要とされた。だが、水面下にうごめいていた影をメルクリンが釣り上げようとしたとき、逆に引きずり込まれそうになり、それをかばったミネルンバが水に落ち、奇妙な影に呑まれて―――
かるい目眩。額を押さえる。「大丈夫?」とプッチーが声をかけてくる。
見ると彼女は、幾分か、申し訳のなさそうな顔をしていた。
「ごめんなさい。このあたりの次元が不安定なのは、わたしのせいなの」
「え……?」
「わたしにまだお母様ほどの力が無いから、超聖水の流れが、どこか他の次元の水の流れに乱されてしまうことがあるの。その渦に、あなたは飲まれて……」
ほんとうにごめんなさい、と非力をわびる彼女は、ひどく落ち込んでいるように見えた。事実、自分の非力が心底悔やまれるのだろう。キッ、と顔を上げたメルクリンにミネルンバは慌てる。慌てて友の口をふさいだ。
「まぁ、終わりよければすべてよしでございますよ。わたくしには怪我一つありませんし、何も問題はございませんわ」
だが、手を振り解いたメルクリンが、噛み付いた。
「問題ないどころじゃないじゃん! ミネルンバ、一週間以上、ずーっと行方不明だったんじゃん!」
まるで予想外の事態。おもわずミネルンバは絶句する。
だが、そう思って見ると、たしかに、メルクリンもプッチーも、いささか顔色が良くない。
特にメルクリンの日焼けした顔には、くっきりと隈が刻まれている。眠りもせずに延々と自分を探し続けていたのか。そう思うと胸が詰まった。
メルクリンはさすがに文句を言うのは我慢したらしい。大きく肩を上げ、下げ、ため息をつく。おそらく気持ちを入れ替えるためだろう。
けれども、ぽつん、と呟く声が聞こえる。
「もし、ここでミネルンバが行方不明なんかになっちゃったらと思ったら、あたい……」
ぐすっ、と鼻をすすり、メルクリンは拳で眼をこすった。
「もう、とにかく、二度と危険なマネはしないでほしいじゃん! あたいのためにミネルンバがどうにかなっちゃうなんて、耐えられないじゃん!!」
「……」
自分のために。
「メル……」
ぽつん、声がこぼれる。メルクリンは眼を上げる。ミネルンバは声も出さずに、友の首に抱きついた。
え、え、などと、戸惑い気味の声が頭上から降ってくる。自分よりやや背の高い仲間。日焼けした肌。お日様と潮の匂い。
それを胸いっぱいに吸い込むと、泣きたくなった。
「ごめんなさい」
「ど、どうしたんじゃん、ミネルンバ?」
理由は無い。首を横に振る。ただ、謝りたかった。……『誰か』に対して、二度と謝ることの出来ない『誰か』のために、謝りたかった。
光がまぶしい。太陽が眼にしみる。涙がこぼれる。
どうしたの、という困惑の声が頭上から降ってくる。ミネルンバはその声にひどく安心し、安心する自分にかすかな痛みを感じ――― 寝覚めの夢のように消えていくすべてを感じながら、友の胸の中、静かに泣いた。
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