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君は、パラコートという農薬を知っているかい?
農薬の一種でね、除草剤として使用される。でも、毒物に指定されていて一般には入手しにくい。どうしてだか分かるかい?
それはね、とても毒性が強いからなんだよ。
たった一口、口にしただけでも死にいたる。それもね、とても悲惨な死に方をするんだよ。
そうだね…… まず、飲んでからニ三日ほどで、腎臓障害が現れて、おしっこが出来なくなるんだ。そして全身に毒素が回り始める。でも、この時点だとまだ死なない。透析を受ければ治療も可能だ。
でもね、それからさらに何日かすぎると、次は、肺が侵されはじめるんだ。
肺が侵されて、呼吸が出来なくなってくる。肺が繊維化しはじめて、酸素を摂取することが出来なくなってくるんだ。
緩慢に、窒息していくことになる。
苦しいだろうねぇ。
ちょっとずつ水に漬けられて、おぼれていくようなものなんだから。
初めは酸素吸入でしのぐこともできる。でも、だんだん酸素の濃度を高くしていかなければいけなくなる。肺が酸素を受け付けないからね。でも、酸素を与えすぎると、逆に肺が痛んでしまうから、窒息するぎりぎりの濃度の酸素しかあたえられない。そうして酸素を増やしていく。10日から20日ほどかけてね。最後には口から与えるのにも限界があるから、喉に管をつっこんで、そこから酸素を入れていくことになるんだよ。
けれど、最後には酸素の濃度が100%に達する。そうなると、もうこれ以上は酸素濃度をあげられない。
息が詰まって、苦しくて、死んでしまうんだよ。
そしてね、どこが一番苦しいか、分かるかい?
パラコートの中毒だと、意識は最後まではっきりしたままなんだよ。
自分が、解毒できない毒を飲まされて、あとは死ぬだけだということをはっきりと分かりながら、何十日もかけて死んでいくことになるんだよ。
くるしいだろうねえ、こわいだろうねえ、かなしいだろうねえ。
さて、そんな農薬だから、現在は薄められた毒性の少ないものしか出回らないんだけれど、古い農家の納屋なんかには、まだ古い原液が残っていることもある。
ほうら、みてごらん。
これがそのパラコートだよ。
さあて、どうする?
たった一口だよ。
たとえば君の弟の飲むコーラにでも、このパラコートを混ぜたら…… さあ、どうなるんだろうね?
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