4.


 後宮での日々は、総じて穏やかに過ぎた。
 シュネイゼは毎日のように森に遊び、花を摘み、不器用な手つきで花輪を編んでは、それを人形やぬいぐるみの首にかけてやった。目隠し鬼などをするときの相手は決まってユーリアだった。今まではそれはテーアの役割だったのだろう。けれど、そろそろ中年も過ぎようとしている年頃のテーアには、17歳という盛りの少女の相手は辛い。
 そして、今日も。
 ユーリアは塔のなかをきれいに掃いて、埃を外に追い出した。窓のガラスもきれいに磨き上げられて、出窓の外には湖が見える。クロスのかけられたテーブルと、花を持った天使を描いたステンドグラス。黒檀の窓。開け放つと春の香りがふわりと舞い込んでくる。ユーリアは大きく息を吸い込んだ。
「ユーリア!!」
 そこへ、シュネイゼが、走ってくる、走ってくる。
「みてね、ユーリア、シュネイゼね、こんなにおおきなお花のくびかざり作ったの!」
 得意げにシュネイゼが掲げて見せるのは、たしかにかなりの長さのある花綱だった。色とりどりの花が編み込まれ、混沌とした色彩が逆に美しい。
「まあ、きれいな首飾りですこと」
 ユーリアがほめると、シュネイゼは嬉しそうに笑う。そして、黒檀の窓から顔を乗り出すと、「ねえねえ」とユーリアに問いかける。
「これ、おかあさまにおくりもの、できないかな?」
「……」
 ユーリアは一瞬返事に詰まった。けれど。
「……そうですわね。きっと、王妃殿下もお喜びになられますわ」
 手を伸ばして花飾りを受け取ると、シュネイゼは本当にうれしそうに笑う。まるで春の花が咲いたような可憐な笑顔だった。
 実際のところ、これをアデレードに渡すことは難しいだろう、とユーリアは思う。
 そうでなくともアデレードは今はレヴァイテンの離宮にいる。帰ってくる頃までには花はしおれてしまう。けれども、それをシュネイゼに説明することは難しいだろう。シュネイゼは案外頑固なところがあって、何かひとつを言い出したら、てこでもそれを動かさないところがある。
「それでは、私から王妃殿下にお渡しして置きますわ」
「うん!」
 嬉しそうに笑うシュネイゼの頬や指は土にまみれていた。まるでプリンセス、それも花の盛りの17歳の少女の姿とは思えない。ユーリアは苦笑する。
「お手手を洗われたら、塔にお上がりくださいませ」
 ちょうど、今だいたいお茶の時間くらいだろう。城の厨房からはジンジャーを入れて人形型に焼いたパン菓子が差し入れされている。これに茶でもいれてやったらシュネイゼは喜ぶだろう。彼女の味覚は子供らしく、甘いものを大変に好むから。
「美味しいジンジャーブレッドがございますわ。お好きでいらっしゃいますか?」
「うん、シュネイゼね、おかしのお人形、だいすき!」
 シュネイゼは満面の笑顔で頷く。そして、手を洗え、といわれたことを思い出したらしく、唐突に振り返ると、塔の裏に置かれている水盤の方へと走っていく。正確には走ろうとしている、といったほうが正しいだろう。ひどく不器用なシュネイゼは、満足に走ることの出来る体をしていないから、体がぐらぐらと左右に揺れていた。
 可愛らしい姫君だ。ユーリアはそう思う。確かに知恵は足りない。物事にこだわりだしたらてこでも動かず、淑女としてのマナーなど一つだって身に着けては居ない。けれど、そんなことが彼女の可憐さを損なうかというと、それは間違いだろうとユーリアは思う。シュネイゼが可愛らしいのは彼女が素直で素朴な性格の持ち主だからだ。無垢な童女のように屈託の無い笑顔を見せられると、何か不思議な気持ちになる。
 そして、事実シュネイゼは美しいのだと、ユーリアは、この塔に勤めてからの短い時間のうちに悟っていた。
 白痴らしい魯鈍な表情を覗けば、その顔かたちは非の打ち所も無いほどに整っている。細い顎。花の淡い紅を刷いた、ふっくらとやわらかな頬。華奢で端正な鼻筋と、かすかに目じりの下がり気味のおっとりとした眼。髪はからまると困るからいつも一本に編まれ、その美しさを見て取ることは難しいけれど、夜のように艶めく漆黒だということはよくよく見れば分かる。唇は野いちご、瞳は春の淡い花。どこか夢見るように焦点の合わない瞳、いかにも痴愚らしい魯鈍な表情を差し引いても、彼女の美しさは誰をも魅了して余りある。なるほど、『雪のごとく白く、黒檀のごとく黒く、血のごとく紅く』とは、よく言ったものだ。
 17歳、とユーリアは思った。
 17ともなれば、貴族、王族の娘なら、そろそろ嫁ぎ先が決まっていてもいい年頃だ。今の世の中13で嫁ぐ娘すら珍しくは無い。白痴であるということを差し引いても、これほど美しく、また、ブランシュタイン王家唯一の王女だという事実を考えれば、彼女がまだ誰にも嫁ぐ気配が見えない、縁談すら表われないというのはいささか奇妙な話に思える。
 その理由については、母であるアデレードが娘の美貌に嫉妬して、縁談をさえぎっているのだとも、父ローラントの溺愛が縁談をさえぎっているのだとも言われていた。けれど、そのどちらもいささか奇妙な話にユーリアには思えた。並みの王族ならば、姫など政争の道具としてしか扱わない。そしてシュネイゼにはその政争の道具としての価値が十分に存在する。なぜなら、白痴のシュネイゼはけして政に口を出さぬだろうから、彼女を娶った男は、思うがままにブランシュタインに権力を振るうことが出来るだろうからだ。
 にも関わらず、シュネイゼはこうして後宮に閉じ込められ、日々をたわいのない遊びの中にすごしている――― さて、何故だろうか?
「ユーリア!」
 手を洗ったシュネイゼが部屋に飛び込んできたので、埒も無い考えもさえぎられた。ユーリアは微笑むと温めたミルクティにシロップをそそいでやる。シュネイゼは糖蜜をたっぷりと入れた甘い茶をよく好む。
 手はかろうじて洗ったらしいが、足も靴も泥だらけ、ドレスの袖も土にまみれていた。ユーリアは少し困るが、まあ、いいかとすぐに思い直した。どちらにしろあとで食卓を片付けなければいけないのだから。
「姫様、糖蜜茶でございますよ」
「わあい!」
 嬉しそうに笑い、手を伸ばす。けれど、すぐに「熱っ!」と悲鳴を上げて手を引っ込めた。ユーリアはくすくすと笑ってしまう。シュネイゼは笑われたことにも気づかずに、きょとんとした表情で口に指を入れた。
「ほらほら、お指を舐められてはなりませんよ。ナプキンでお拭きください」
「このお茶、痛いの……」
「もう少し立てば冷めますわ」
 小さな子供が喜ぶような、ジンジャー入りの菓子パンは、人形の形に焼き上げられている。それを手に取ったシュネイゼはさっそく遊びを始める。片方の人形はシュネイゼ、そして、もう片方の人形は、アデレードだ。
「シュネイゼ、きれいなおはなをありがとう。おかあさま、シュネイゼがんばって作ったよ。まあそれはすてき。ごほうびにいっしょにダンスをおどりましょう」
 テーブルの上で踊りだすジンジャー入り菓子パンの人形たち。お行儀が悪いのは当然だが、くすくす笑いにさえぎられて、ユーリアは思わず止め損ねてしまう。アデレードの人形はシュネイゼの人形の頭をなで、体を抱いてやる。シュネイゼは椅子の上で体をゆすりながら、楽しそうに菓子パン人形たちの劇を演じた。
「あのね、これはユーリアなの。ちょっぴり顔におこげがあるから、ユーリア」
「まあ、私も参加させてくださるんですか。光栄ですわ」
「あのね、テーアもユーリアもいっしょに、おかあさまと楽しくここでくらすのよ」
 嬉しそうな笑顔でシュネイゼは言う。そこでふと疑問に思う。ユーリアは部屋を見回す。テーアは居ない。城のほうへ用件で出かけている。ユーリアはそろりと問いかけてみる。
「姫様はずいぶんと王妃殿下をお慕いなさっていらっしゃいますのね」
「あのね、おかあさまは、おかあさまだもん」
 ずっと、きのうもきのうも、その前のきのうもあってないけど、とシュネイゼは付け加える。その顔にさみしさの影が差した。
「あのね、シュネイゼがちっちゃな子供だったころね、おかあさまとシュネイゼはとっても仲良しだったの。毎日たくさんあそんだの。おかあさまはやさしくていいにおい。シュネイゼ、おかあさまが大好き。おかあさまもシュネイゼがすき」
 ユーリアは疑問に思う…… ブランシュタイン王妃が娘を軽んじているのは有名な話なのに。
「それは、いつごろのことですの?」
「えっとね…… きのうのきのうの、そのきのうよりも、ずっと昔。シュネイゼがとってもちっちゃかったころ」
「おいくつの頃でしょうか」
「……わかんない」
 シュネイゼは菓子パンの人形をいつしかテーブルに戻し、激しく体を左右にゆさぶりはじめていた。眼が困惑を写している。ほんとうに分からないのだ、とユーリアは思う。
 体を揺さぶり、指をしゃぶりながら、シュネイゼは、ぽつん、ぽつんとつぶやく。
「あのね、おかあさま、シュネイゼのこととっても大好きだったの。でも、きゅうにシュネイゼに会いにきてくれなくなっちゃったの」
「まあ……」
「それからね、シュネイゼ、ずっとまってるの。おかあさまがまた遊びにきてくれるの待ってるの」
 だってシュネイゼはおかあさま大好きだもん。そうつぶやくと、シュネイゼの眼からぽろりと涙が落ちた。ぐすっ、と鼻をすすりあげる。
「おかあさま、きっとね、シュネイゼがわるい子だから、あいにきてくれなくなっちゃったの」
「悪い子……?」
「おとうさまがいうもん。シュネイゼはわるい子だって。シュネイゼがうまれてこなかったら、みんな幸せだったって」
 不可解な言葉だ、とユーリアは思った。
 ブランシュタインには他に跡継ぎは居ない。寵姫を持たないローラントには、正妃アデレードとの間にシュネイゼ一人がいるきりだ。ここでシュネイゼが生まれなければ状況は輪をかけて大変なことになっていたことだろう。なにしろそれは、ブランシュタインの高貴な青い血が、失われることを意味しているのだから。
 ローラントとアデレードの不仲…… 決して不仲ではないが、夫婦としてのありかたは完全に崩壊しているという話はユーリアも知っている。おそらく今後はシュネイゼのほかに王女、王子は望めまい。ならばシュネイゼは貴重な政争の道具、ブランシュタインの青き血を残すための道具だ。それが『うまれてこなければ』だと?
 いまやシュネイゼは爪を噛みながら、椅子がガタガタと音を立てるほど、はげしく体をゆさぶっていた。ユーリアは我に帰る。とめなければ。慌てて肩に手を置いて、髪を撫でてやると、シュネイゼの焦点の合わない目が、ユーリアを見上げた。
「姫様は『悪い子』などではございませんわ」
「ユーリア……?」
「姫様はとてもお優しくていらっしゃる方、朗らかで人を楽しくさせて下さる方ですわ。それが悪い子などということがあるものですか」
 だが、言っても効果は無いらしい。シュネイゼはなおも爪を齧り、体を左右にぐらぐらと揺さぶる。そして言う。ユーリアにとって信じられないようなことを。
「だったら、おとうさまはどうしてシュネイゼを地下室のベットでねさせるの?」
「……え?」
 地下室の、ベット?
「いたいことたくさんするの。ちっちゃいころからずっと、おとうさまはシュネイゼがわるい子だからおしおきをするの。でもおとうさまはうそつき。おとうさまがおしおきしたいのは、ほんとうはシュネイゼじゃないの」
 ユーリアは、はっとした。
 接触した相手の思考や感情を読み取る『魔法』。シュネイゼはそんな魔力を持った娘だ。彼女の手に触れれば、何を考えているのかなどたちどころに読まれてしまう。シュネイゼの心があまりに幼いゆえに活用されることの少ないらしい能力だったが、それの見抜くものは真実に違いない。ならば、父王ローラントが『おしおき』を望んでいるのは、一体何者だというのか。
 それよりも先に――― 『おしおき』とは、一体なんだ?
 シュネイゼは親指の爪を神経質に噛む。ぎざぎざに噛み千切られた爪から血がにじむ。椅子がガタガタと床に音を立てる。
「おとうさまがおしおきしたいのはね、……」
 その、名前は。




 ―――湖畔の塔には、地下室が、ある。
 入り口を見つけることは難しくは無かった。開けてはいけないとテーアに命じられていたドア。それは、思い樫の木で作られた分厚いドアだ。
 鍵が掛かっていたが、針金を使えば明けることは造作も無かった。ドアを開けるとひやりとした冷たい空気が頬を撫でる。石を積み上げた壁。磨耗した石の階段。
 空気はひんやりと冷たく、湿っている。ユーリアはドアを閉め、手燭に火を入れた。ゆっくりと階段を下って行く。すると。
 そこには、いくつかの独房が、並んでいた。
「……独房?」
 だが、独房にしてはきれいすぎた。床はきちんとタイルモザイクで飾られ、部屋ひとつひとつにはベッドや棚がしつらえられている。誰のための独房か。考えて、すぐに理解する。ここは―――
「いままで、このブランシュタインの恥とされてきたものたちが、隠されてきた場所です」
 背後から声がする。シュネイゼは弾かれたように振り返った。
 そこには、テーアが立っていた。
「テーア様……」
「開けてはならぬと言ったはずでしょう」  
 だが、テーアは深い深いため息をついただけで、それ以上にユーリアをとがめることは無かった。どちらにしろ知ることになったことだ――― 表情にはそんな諦めの色が浮かんでいる。
「このブランシュタイン王家の御方々は、皆、青く神聖な血を持っていらっしゃいます。それはこの国が作られた時に女神と契約を交わした清い血。けれども、血というものは時が過ぎるにしたがって薄れ分散していってしまうもの。それをひとところにとどめようとすれば、水の流れをせき止めたように、そこによどみが生じます」
 かつ、かつ、かつ、と足音を立てながら、テーアは階段を下ってくる。そして手燭をかざした。鉄の格子の影がいっせいに揺れた。
「人の形を持たず生まれてくるもの、姫様のように知恵の足りぬもの、狂気に駆られたもの…… みな、この地下牢に幽閉されて来ました。それがブランシュタイン600年の歴史の負の遺産です」
「ですが、今はここに幽閉されるような方々など、いらっしゃらないのでは?」
 テーアは答えなかった。ただ歩を進める。ユーリアは後に続く。そして、テーアはひとつの独房の前で足を止めた。……いや、独房ではない?
 そこは、鉄格子こそあれど、扉は開け放たれたままの部屋だ。壁にはガラスのランプが吊られ、その透明さが今でもこの部屋が使われているものだということを知らせている。そしてそこには一台のベットが置かれていた。そして――― ほかの、何に使うのかもわからぬような器具たちも。
 ユーリアは、一瞬、思考が停止するのを感じた。
 これは、いったい、なに?
 そこに置かれているものの中で、ひときわ目を引くのは大きな一台のベットだった。精緻な彫刻を施された飾り板、やわらかい羽毛の布団、清潔なシーツ、このような場所に置かれているということが理解できないようなうつくしいベットだ。けれど、そのベットを見ていれば、誰でもすぐに異常に気づいただろう。
 そのベッドの四隅の柱には――― 枷のついた鎖がつながれている。
 ひゅっ、とユーリアは息を飲んだ。
 天井からつるされた鉤。壁のホルダーにかけられた何種類もの鞭。ほかにも、何の用途に使うのかすら分からぬような、奇怪な形の器具が並んでいる。
 『おしおき』という言葉が、ふいに、脳裏に蘇った。同時に、シュネイゼのやわらかく白い背中に縦横に走っていた、奇怪な痣のことも。
 ユーリアの唇が震える。けれど、満足に言葉が出てこない。テーアだけが石のように冷静だった。
「ここに、御手をお繋ぎいたします」
 テーアはベットにつながれた手かせの一つを手に取る。さびの浮いた鉄の枷だった。鎖は短い。こんなものをつながれては、満足に身動きすることすらもできなくなってしまう。
「ここに、お御足を」
「……姫様を、ということですか」
「……」
 テーアは沈黙した。それが何よりも雄弁な答えだった。
 ユーリアは、冷たい地下牢を、見回した。
 拷問器具だと一目で分かる奇怪な道具たち。革で作られた枷や、奇妙な形に組まれたベルト。鎖や鞭。壁沿いにもいくつもの鉤が並び、そこにも手枷や足枷が吊るされていた。
「なぜ、こんなことを?」
「陛下のお考えに私どものような卑小な召使い程度が口を出すなど、そんな大それた話が、許されるはずがございません」
 テーアの顔をユーリアは見た。そこにあるのは石のような無表情だった。だが、それは生まれながらの無表情ではないのだろうと分かった。心を凍らせ、石にして、すべての感情を封じ込めた表情だ。 
 ユーリアは壁を見る。そこに吊るされている鞭の一本を見る。革を編んで作った一本鞭だった。これで背中を打てば、弱い皮膚はたちどころに破れ、痣を散らし、血潮を吹き出させるだろう。誰でも泣き喚くしかないほどの苦痛の予感がそこに漂っていた。けれど、この地下でどれだけ悲鳴を上げようとも、地上に届くことは無い。もしや塔のなかで気づくものがあったとしても、城の住人たちが気づくことなどけしてない。
 おとうさまが怒るとこわいから、とシュネイゼがつぶやいた言葉が思い出された。その瞬間、背中が総毛立つような感触を覚える。
 国王ローラントは、一体何を考えているのか? たったひとりの娘、それも、哀れな白痴の娘にこのような拷問を施して、一体何をしようとしているのか。何を望んでいるのか。
「ユーリア」
 テーアが、静かに言った。
「召使いは分をわきまえ、それ以上のことをなしてはなりません」
「……」
「国王陛下のなさりように口を出すなど言語道断、けして許されぬことです。まして姫様は国王陛下のもの、私どもが口を出すなど差し出がましいことは、決してしてはなりません」
 ユーリアは答えられなかった。テーアが眼を上げた。灰色の瞳。
「私が貴方にこの場所への立ち入りを許したのは、あなたが姫様付きの侍女だからです。これもまた、ブランシュタインの秘密の一つ。けして外のものに知られては…… いえ、国王陛下のほか誰もこのことを知ってはならぬのです。わかりますね?」
「……はい」
 ためらいながらユーリアが頷くと、テーアは無表情に立ち上がった。
「ここで見たものの事は忘れなさい。あなたは今までどおりに姫様にお仕えする。……わかりましたね?」
 テーアは念を押す。けれどユーリアは答えられなかった。
 一言として。





 
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